いまナノテクノロジーが、さまざまな産業に大きな変革をもたらしている。なかでも、鉄鋼、半導体、セラミックスなどの高機能素材の開発には、ナノ領域での材料設計が不可欠だ。電子顕微鏡をはじめとする高機能の顕微鏡による材料解析・評価は、新素材の開発や製造プロセスの改良を支える基盤技術であるといっていい。
しかし反面、研究開発の現場には、現在の電子顕微鏡の使い勝手の悪さを指摘する声もある。「解像度などのスペックは高まっているが、観察の試料前処理や操作性など、研究者にとって必要な観察環境の改善が進まなかったからだ」と指摘するのは慶應義塾大学経済学部化学教室の清水健一教授だ。
一例をあげれば、鉄鋼組織をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察するための前処理である「組織出し」では、試料に適した研磨方法や仕上げであるエッチング液、エッチング条件に高い専門性が必要なうえ、処理に何日もの時間を要することがある。また、エッチング段階で表面組織に変化が起こるため、思うような観察ができないこともある。研究者の優れた研究アイデアも、この観察段階で断念せねばならないことも多いのだ。
誰もが簡単に短時間で、表面を損傷することなく組織出しできる、夢のような前処理方法はないものか?それを実現したのが、清水教授と堀場製作所が共同開発した新しい試料前処理技術である。
新しい技術は、堀場製作所が表面分析のために開発した「rf-Grow Discharge plasma装置」(以下rf-GD)のユニークなスパッタリング※ 特性を、顕微鏡試料の表面処理に用いるという画期的な発想により生まれた。実証研究を積みかさねることで、従来の約1000分の1以下である10秒で表面処理が可能になるうえ、前処理時にエッチング薬品を使用しないため、廃液処理が不要など環境負荷も軽減できることが分かってきた。
「もっとも重要なのは、操作が簡単で熟練具合による個人差がないこと。観察の手技にとらわれず、研究者は本来の研究内容で勝負できるようになる」と清水教授。操作性の向上により、顕微鏡は研究者の創造性を引き出すための道具になると清水教授は期待している。









