main_fix

TOP○○をはかる空気をはかる > 空気をはかる[2] 大気汚染対策に「空気をはかる」が果たすこと

空気をはかる[2]
  大気汚染対策に「空気をはかる」が果たすこと

光化学スモッグにPM2.5。大気汚染は私たちの身近な問題として、また時に私たちの身体に小さくない悪影響を与える重大な課題として存在します。世界的に国を挙げての対策が進んでいますが、ここ日本でも各地での「環境モニタリング」が実施され、得られたデータを基にさまざまな施策が行われています。大気中の大気汚染物質を明らかにし、大気汚染対策のベースとなる「空気をはかる」。今回はどのように「空気をはかる」のか、その仕組みがテーマ。HORIBAで大気汚染監視用濃度測定装置を担当している水野裕介さんにお話をうかがいました。


できるだけ人の呼吸に忠実に……大気汚染物質のはかり方

空気は目に見えません。当然、汚染されているかどうかもわからない。空気中に漂う大気汚染物質のはかり方とは?

mzn2はかる場:大気中の汚染物質をはかる仕組みについて、基本的な仕組みについて教えていただけますか?

水野:大気汚染物質の測定は、主に人が健康に暮らしていける基準濃度以下であるかどうかをチェックするために行われています。人が普段生活している中で長期的・短期的に影響 がない濃度が環境基準にされているため、はかる条件も人が普通に呼吸するような環境に近づける必要があります。 一般的には大気を屋内へ引き込んだ後、二酸化硫黄や一酸化炭素など、専用装置で濃度測定を行っています。

はかる場:直に大気をはかっているのかと思ってました。

水野:大気汚染物質濃度は、高精度と安定性が求められます。そのため、環境条件が整った 部屋の中に設置されているのが一般的です。先に挙げた二酸化硫黄や一酸化炭素といったガス状の物質はこのパターンではかれますが、微小粒子状物質と呼ばれているPM2.5は大気を引き込む方法が違います。ガス状物質とは違って、2.5μm以下の非常に小さな粒子であるものの、装置に取り込む過程で吸着したりして測定値に影響が出てしまいます。そのため、大気を採取する部分を部屋の天井に穴を開けて、直接外に出してその影響を最小限に抑えるようにしています。

はかる場:設置場所に決まりはあるのですか?

水野: 一般環境大気測定局と呼ばれる住民が住んでいる地域を代表する場所や、自動車排出ガス測定局と呼ばれる自動車排出ガスの影響が大きいとされる場所と、その設置場所には決まりがあります。また、大気汚染による人の健康の保護及び生活環境の保全から測定局数が算定されています。その測定局数は人口や可住地面積や地域的特徴に即して算出されています 。現在、1800局以上で測定が行われています。

はかる場:では、機器に取り込んだ空気のはかり方についてうかがいたいのですが。

水野:現在のガス物質の測定方法は、「ウェット方式」と「ドライ方式」があります。ウェット方式とは、対象物質を液体と化学反応させ、濃度に応じた色の変化を測定する方法や、溶媒に溶けたイオン濃度に応じて電気伝導率を測定する方法です。ドライ方式とは、液体を使わずに物質に特定の光を当て、濃度に応じた光の吸収量や発光量を測定する方法です。

PM2.5などの浮遊粒子状物質ではまず、掃除機のように空気を吸い込み、専用のフィルターに捕集するのが一般的です。日本では浮遊粒子状物質(SPM)と呼ばれる粒子径が10 μm以下と微小粒子状物質(PM2.5)と呼ばれる粒子径が2.5 μm以下が環境基準として定められています。その中でPM2.5に代表される粒子状物質は、 大気中の粒子から分粒器と呼ばれるものを使って 2.5 μm以下の粒子を取り出しフィルターに捕集します。そのフィルターに放射線の一種のベータ線を照射すると、捕集された量に比例してベータ線が吸収される原理を用いて重量が求められ、吸った空気量から最終的に濃度が計算されます。

その他に、粒子に照射した光の散乱量を測定する方法や捕集された粒子量に応じて変化する振動数を測定する方法などがあります。


時代に求められるPM2.5対策、その現状と課題

大気汚染の状況は時代や場所によって多様です。ニーズに合わせて「空気をはかる」技術も進化しています。今もっとも対策を求められているのがPM2.5対策です。

_029A8537はかる場:時代や環境の要請によって求められる技術も変わってきますよね。お話を聞いているとやはり、今だとPM2.5の測定が大きなニーズになっているのでしょうか?

水野:そうですね。日本では大気汚染対策の中でも工場から排出される排ガス、ディーゼル車の排出対策などで成果をあげています。一方で光化学オキシダントや、PM2.5の問題はまだまだ。PM2.5の環境基準ができたのも2009年です。国(地域・人)によってPM2.5がもたらす影響は違います。 PM2.5は微小粒子状物質という総称で呼ばれているとおり、金属・有機物など多くの物質を含んでおり、その中身がわかって初めて効果的な対策ができるのですが、まだ重さでしかPM2.5を把握できていないのが現状です。

はかる場:それは大きな課題ですね。それこそPM2.5が騒がれはじめてから、人々の関心はどう体に悪いのか、どこからやってきたのか、そんなところだったと思います。

水野:簡単に言えば都市圏のPM2.5と山間部のPM2.5では中身が異なります。しかしその違いがわからない。そのため、その中身の分析が重要になってきます。すでに国を挙げての対策もはじまっています。そうなってくると、ここまでお話してきた重さを測定する装置はその一部で、様々な分析技術、例えば酸性やアルカリ性度合いが測定可能なpHメータや元素分析が可能な蛍光X線分析技術などを上手に組み合わせて、その課題を解決していく必要があると考えています。HORIBAには様々な分析技術があり、このような技術をどのようにして役立てていくか、日々研究をしています。

はかる場:知りえたデータをどのように使うかというのも重要ですよね。

水野:環境を改善していくためには3つのステップがあり、サイクルを回しています。最初はやはり、ご紹介しているような装置を置いて状況を把握する。状況が把握できたら今度は、発生源もしくは発生メカニズムの把握を行う。自動車の排気を抑えたり、工場からの排ガスを減らしたりして、対策を。そしてもう一度モニタリングし、対策に対して結果はどうだったかを確認する。

発生源次第では、企業や自治体、一国で済む問題ではないかもしれません。データを上手に活用し、関わる人たちが連携していくことも求められますね。


最後に「空気をはかる」ことの意味を問いかけると、水野さんはこう、力強く語ってくれました。

mzn1はかる場:「空気をはかる」お仕事は、世の中に対しどんな役割を担っていると考えますか?

水野:繰り返しになりますが、人の健康と安全、これがまず貢献できることではないかと。空気をはかる……人には見えないものを数値で可視化する。これまでは健康被害となる特定のガスを測定して、それが基準以内であるかどうかを監視するのが主な目的でした。しかしこれからは、空気をはかるプロフェッショナルとして、未然に防ぐことを担うべきではないかと思います。

空気をはかり、得られたデータが先回りして人の健康と安全を守る。生きるうえで欠かせない、あって当たり前の空気だからこそ、気が付かないうちにそんな技術に支えられているかもしれませんね。


次回は、実際に大気測定の研究を行っている、大阪府立大学の研究所を訪問します。

 

空気をはかる

>>空気をはかる[1] 私たちの空気は「汚れ」ている?
>>空気をはかる[3] 大気汚染をはかることは「はかりつづける」こと

 

Page Top