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野菜のおいしさをはかる[3]
  おいしい野菜を届けるために「はかる」

野菜のおいしさにとって重要な意味を持つ「硝酸」。前回はHORIBAの硝酸イオンメータを使って、野菜に含まれる硝酸のはかり方を紹介しました。「野菜のおいしさをはかる」連載の最終回は、前回お話をうかがったHORIBAの小松さんとともに、実際に野菜を育てる現場を訪ねます。野菜のおいしさに人一倍こだわりを持つ、高付加価値野菜を提供している京都の農家さんのお話です。


野菜のおいしさをはかる現場へ

京都市の北部・上賀茂は昔から農業を営む人が多い地域。今や全国的に知られるブランド “京野菜”も、古くから生産されています。今回、はかる場編集部が訪れた「森田農園」は、上賀茂で100年以上続く農家さん。お話をうかがった代表の森田良彦さんで3代目の老舗です。森田農園では夏場は果菜類(実や種を食べる野菜)、冬場は根菜と葉物野菜と、1年を通じてさまざまな野菜をつくられており、名だたる料亭やレストラン、ホテルからもご指名を受けるそうです。

「上賀茂という地域では昔から有機栽培が根付いていた」という森田さん。昔ながらのスタイルを大切にする一方で、硝酸イオンをはじめとしたデータを収集するなど、常に新しい取り組みで野菜のおいしさを追求されています。森田さんの野菜作りには、どんなこだわりが詰まっているのでしょうか?


「土に始まり土に終わる」……森田農園の哲学の源は土にあり

高付加価値野菜にこだわりを持って農家を営む森田さん。そのこだわりのルーツは岩手に、ベースは土にありました。

はかる場:高付加価値野菜をつくるようなきっかけのようなものはあったのでしょうか?

森田さん:もともと有機栽培をやってきたわけですが、有機野菜がブームになってスーパーの方や市の職員さんとお話しすると、かなり農業に対して勉強されていることがわかりました。私もこのままではいけないと、20年ほど前に岩手に行きました。半年ぐらいでしょうか。当地の農家はもちろん、大学の研究者、企業などが集まった勉強会に参加したんです。

はかる場:その場ではどういったことを学ばれたのでしょうか?

森田さん:ざっくり言うと「光合成」、「発酵」、それと「微生物」に関する知識ですね。日本中から集まってきた人たちに、先行して取り組んでいる農家や、企業の方がレクチャーする。その勉強会の流れでHORIBAさんともつながりました。いろんなメーターをつくられているので講師として参加してもらえないかと。勉強会で学んだことはその後の森田農園のこだわりにつながっていると思います。「土に始まり土に終わる」。

はかる場:土の研究ですか。具体的にお話いただけますか?

森田さん:当時は有機栽培という言葉が独り歩きしていたんですよ。認定農家でないと名乗れないという規格ばかりが騒がれたり、農薬や化学肥料の基準が曖昧だったり。名前が先走っていて、味は二の次。でも野菜の本質は土なんです。土を知らなかったら有機栽培なんてできない。どんな土が単粒なのか、団粒はどういう土なのか、双子葉はどんな土を選ぶのか。何より土と野菜のおいしさは密接に関係しています。育てるためにやたらに肥料を入れればいいというわけではない。硝酸なのか、カリウムなのか、pHなのか。育てる野菜に何が不足しているのかを見極めて、土を通じて肥料を与えなければいけません。

はかる場:なるほど、土を知らずして、おいしい野菜はありえないというわけですね。

森田さん:たとえば、野菜ができなかったら一度、土自体を太陽熱処理しなさいと。雑菌がたくさんあるのかもしれないし、肥料をあげすぎているのかもしれない。それを太陽熱処理して土自体をきれいにします。そこからはじめなさいと。


こだわりのおいしさを保つために「はかる」が果たしている役割とは

これまでの連載でお話してきたとおり、野菜のおいしさには硝酸イオンが大きく関わっています。そのあたりについて、森田さんにもうかがいました。

はかる場:まず土を知る。そのために「はかる」ことが必要になるんですね。

森田さん:それまでは勘に頼るしかありませんでしたが、やはり消費者の方に納得してもらうためには数字です。生産者としても、数字で見れば、肥料の与えすぎのような無駄なコストを省くことが、結果として利益にもつながります。今でもおいしさのバロメーターは私がおいしいと思うかどうか、「ベロメーター」ですが(笑)、おいしいと思ったら再度成分をはかってみるんです。それが予測やそれまでの基準と合っているか確認する。それにより、品質を安定させる目安ができますよね。

はかる場:硝酸イオンについてはいかがですか?

森田さん:硝酸イオンでいえば、先ほどもお話した肥料の節約がひとつですね。樹勢状態を見る時にも使います。虫がつく時は何かが起きているのですが、はかってみると正常な時と虫がつく時では数値が違います。そういった経験でわかる変化を見つけた時に、すぐにはかって確かめることができています。

はかる場:硝酸イオンメータは、どのような種類の野菜に、またどれくらいの頻度で使われているのですか?

森田さん:硝酸のたまりやすい野菜、ほうれん草や小松菜などの葉野菜ですね。頻度はそんなに高くなくて、収穫の手前などでしょうか。

はかる場:この機器を使って、品質に直結するようなことはあるのでしょうか?

森田さん:品質改良というよりは野菜がもつもともとの性格を知ることでしょうね。硝酸値にしても、もともと高いものもあれば低いものもある。そのうえで今度は、市場での反応を実際に見聞きします。出荷時はベストのものを出したけれど、店頭に並んですぐに黄色くなっていることもあります。おいしさについても、お客さんの求めるものを出さなければ売れません。お店の担当者さんから反応を聞いて、求められるおいしさに近づける、そういったことはありますね。

※樹勢(じゅせい):樹の勢いを指し、枝葉などの発育状態もあらわします。


森田農園のビジョンに、高付加価値野菜を生み出す先進農家たるゆえんを見た

 

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小松さんと森田さん。野菜のおいしさにかける思いは同じです!

 

おいしい野菜を提供する。「はかる」が果たしている役割はそのベースとなる、土の状態や野菜の性質を知るところにありました。しかしそれも一部に過ぎません。森田さんが思い描く、高付加価値野菜≒おいしい野菜の未来とは。

はかる場:森田農園の野菜のおいしさへのこだわりは、原点に忠実であることと感じました。その一方で、そうしたものづくりの姿勢は、今の世の中が求めている最先端なのではないでしょうか。

森田さん:今考えていることもそのようなお話です。消費者ニーズに合うものを、ということであれば会員制にして、個人単位でオーダーメイドの野菜をつくったり。うちは耕作面積もそんなにないですし、大量生産には向いていません。それに今もそうなのですが、消費者の方々の顔が見えることは生産するうえでもとても役立ちます。やはり安全性が求められているのは強く感じますし、その点でもお互い顔が見える関係はいいですね。農業ですが「生命の産業」だと思って取り組んでいます。生命を維持するためには、朝昼晩、栄養もバランスが取れた食事が必要です。

はかる場:実現のためには知識も技術も求められますね。

森田さん:そうなんです。高齢化社会になれば、病気が原因で食事に制限がかかる人も増えるでしょう。たとえば透析している人はカリウムが食べられない。そうした人たちに食べてもらえる野菜をつくるためには、全部数値化して見せなければいけない。知識と「はかる」技術がないとできません。ここまでしていると、農業という産業に対する見え方や考え方も違ってきます。先日も女子会(!)で農業を見学したいというオファーがありましたし、過去には「婚活」に絡めたこともあります。人が集まれば地域貢献にもつながりますし、そしてそこに参加する人たちはやっぱり、おいしい野菜を求めているんですよ。

「はかる」で言えば、”照度”をはかりたい。曇天と晴天では光合成に必要な量がどれくらい違うのか。昨今の異常気象もありますし、天候によって野菜の成長が遅れることも多いんです。不足した分をLEDの光で補うとか。難しいですよ、農業は。経営面でも、どのくらいの値段をつけたら値ごろなのか、突き詰めると心理学を学ぶ必要があったり……。恐ろしく奥深い。でも一生懸命やって、お客さんがニコって笑ってくれたら、「やっててよかったなあ」って思いますからね。やっぱり笑顔は大切ですね。


「はかる」を駆使して高付加価値野菜を栽培する先端農家。その実像は、原点に忠実に野菜作りに勤しむ、地域に根ざした農家でした。私たちがスーパーやレストランでおいしい野菜と出会う時、その向こう側には、多方面にわたって学び、多くの実践を重ねる農家の姿があるんですね。

森田さんがおっしゃるような、個人のニーズに沿ったオーダーメイドの野菜が提供される未来が来るのなら、私たちにも野菜を「はかる」ことが、もっと身近になる日がやってくるかもしれません。

 

森田農園

京都市北区上賀茂池端町39-1
TEL: 075-712-4889
FAX: 075-791-5986
「おいでやす」
営業時間 10~18時 不定休
※森田農園の野菜が買える直売所です

 

野菜のおいしさをはかる

>>野菜のおいしさをはかる[1] 「おいしさ」を「はかる」ことはできるの?
>>野菜のおいしさをはかる[2] 野菜の成長とおいしさを左右する「硝酸イオン」をはかる

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