main1

TOP○○をはかる血液をはかる > 血液をはかる[2] 血液検査のしくみと、その先に見える未来

血液をはかる[2]
  血液検査のしくみと、その先に見える未来

前回の記事では血液検査の種類や役割などを、私たちの生活に絡めた身近な視点でお話しました。数百を超える項目の検査が可能で、いまなお新たな利用法の研究が進んでいるという血液検査。人々の健康的な生活に対して、担う役割の大きさを実感します。今回は、「血液をはかる」仕組みについて、HORIBAで「血球計数・CRP測定装置」の開発を担当している野村尚之さんにお話をうかがいました。


血球の数を数えると血液の状態がわかる

「血球計数・CRP測定装置」は、その名のとおり、「血球の計数」と「CRPの測定」を同時に行える装置です。それぞれをはかる仕組みについて、野村さんに教えていただきました。

sub1はかる場:まずは、野村さんの専門分野である「血球計数」についてうかがえますか。

野村:血球計数とは、血液の主要な要素である血球成分(赤血球、白血球、血小板)の数や状態を調べる検査です。CBCという略称が使われています。「血液学的検査」とも呼ばれ、血液および身体全体の健康状態を知るための重要な指標になります。

この検査の特徴として、「標準物質」がないことが挙げられます。何かをはかる場合、通常は基準となるものがありますよね。たとえば長さの「5センチ」、重さの「10グラム」といえば、その量を誰もが同じくはかることができます。つまり、「10グラムとは何か」を客観的に示す基準となるものがあります。それが標準物質です。血球の計測には、それがありません。理由は常に活動しているためです。白血球1,000個をはかろうとしても、はかっている時間内にも新たに生まれたり、死んだり、移動したりと変化し、測定したタイミングによってばらつきが発生してしまうため、「白血球1,000個」という量を客観的に決めることができないのです。

ものさしのない分析機器というか、まったく同じ条件で計測しても同じ結果が得られないということに注意が必要です。

はかる場:はかるのに基準がないというのは驚きですね。CBCの仕組みについて、もう少し詳しく教えてください。

野村:赤血球、白血球、血小板ともに、基本的にはかる原理は同じです。まずは採血した血液を、専用の希釈液で薄めます。血球は血液中に大量に含まれているので、数えやすくするために、一定の体積あたりの血球の数を薄めて減らす必要があるのです。

次に、薄めた血液を測定機器の「アパーチャ」と呼ばれる微細孔内に一定の流速で流し、直流の電流を流します。血球は「電気を通しにくい性質」をもっているため、血球がアパーチャを通ると抵抗が生まれて電流の値が揺らぎます。血球1つに対して揺らぎが1つ生じるため、揺らぎの数を数えれば通った血球の数がわかるというわけです。流速を一定に保っているので、指定した時間内に何個流れたかを調べることで、一定の体積の中に何個の血球があるかがわかり、そこから血球の濃度を計算できます。

はかる場:流れてくる血球を1個1個数えるんですね。血球は、たとえば赤血球であれば、1マイクロリットル(=0.001 ml)中に400万個程度もあるとのことですが、そんな数のものを1個1個数えられるのですか?

野村:はい、できます。たとえば赤血球と血小板の計数のためには、HORIBAの装置の場合、1万~2万倍に薄めます。すると、同じ1マイクロリットル中でも、赤血球なら数百個程度しかないことになります。それくらいの数になれば血球同士がくっつきあって詰まったりすることなく、1個1個、アパーチャを通っていくことができます。赤血球と血小板は同時にはかりますが、両者はサイズが異なるため、通過する時の電流の揺らぎの大きさによって区別できます。揺らぎが大きいのが赤血球で、小さいのが血小板です。

はかる場:なるほど。白血球についても同じ仕組みなのでしょうか?

野村:白血球は、赤血球と血小板に比べてぐっと数が少ないので、別に計数します。赤血球の1,000分の1ぐらいの個数しかないのです。そのため、数百倍に薄めれば血球が1個ずつアパーチャを通るようになります。

白血球を数える際は、数が多い赤血球や血小板に埋もれてしまわないように、溶血剤という薬剤によって白血球以外の血球を溶かします。白血球はリンパ球、単球、顆粒球の3種に分類されますが、溶血剤により白血球自体も収縮し、その収縮具合がそれぞれで違うため、3種を区別できます。収縮させた状態で電気を流すと、アパーチャを通るときの電流の揺らぎの大きさも3種で異なり、それぞれの揺らぎの数を数えればリンパ球、単球、顆粒球が各々どのくらいあるかがわかります。

はかる場:CBCはその名のとおり、血球の数を数える検査と理解しました。血球の数を数えると、どのようなことがわかるのでしょうか。

野村:血球の数は、身体の状態を知るためにとても重要な情報です。一般的に、赤血球の数が少ないと貧血状態を示し、多すぎると血の流れが悪くて血管が詰まりやすい状態にあるといえます。白血球は身体に細菌などの異物が入ってくると、戦うために数が増えますが、多すぎると白血病が疑われます。少ない場合もさまざまな可能性が考えられ、何らかの病気かもしれないと考える一つの指標となります。


感染症対策の重要な指標「CRP」を迅速にはかる

sub2はかる場:次に「CRPの測定」について教えてください。

野村:CRPとは「C-反応性タンパク」のことで、組織が損傷したときや微生物が体内に進入したときに血中にあらわれるタンパクの1つです。炎症反応の強さと関係し、病気や怪我の重症度を反映して増減することがわかっています。

はかる場:HORIBAの「血球計数・CRP測定装置」は、「血球の計数」と「CRPの測定」の両方が同時にできるということが強みだとうかがいました。

野村:HORIBAがこの装置を開発したのは1990年代にさかのぼります。当時の開発者がある医師に「血球の数とともにCRPも測定することができたらいいのに」と言われたのがきっかけだそうです。CRPを白血球と同時に計測し、両方の値を見ると、感染症にかかっているかどうかなどを迅速に診断することができるからです。

一例としては、白血球の増減とCRPの増減を見ることで、ウイルス感染なのか、細菌感染なのかを判別できます。体内に細菌が侵入すると白血球が活発に活動するのは先ほどお話したとおりですが、白血球が増え、細菌を退治するとともに、CRPも増えます。一方ウイルスは、一見異物ではないかのようにふるまって細胞をだましながら細胞に取りつくため、白血球が異物と判断するのが遅れます。そのため、ウイルス感染の場合は、白血球は増えずにCRPが軽度に増えることになります。

はかる場:具体的にはどのような病気に有用なのでしょうか。

野村:高熱が出たものの理由がわからない、そんな時に感染症の原因がウイルスなのか細菌なのかがわかれば、抗菌薬を投与するか否かの判断ができます。ウイルス感染の場合には、抗菌薬を投与しません。最近はインフルエンザの判定に鼻の奥に長い綿棒を入れて粘膜を採取する簡易検査が多く使われていますが、あの検査はインフルエンザか否かを判定するのみであるのに対して、血球とCRPを同時に測定すると、白血球とCRPの値によって、インフルエンザのみならずほかの感染症にかかっている可能性も知ることができます。また、リウマチの患者さんにもよく使われます。CRPの値からリウマチの炎症の強さを見て、薬の効果判定に利用されます。

血球とCRPを同時計測する装置は、我々が特許を持っているため、今のところHORIBAの製品しかありません。同時にはかれるという強みに加え、4分半という迅速さで行うことができるのも特長です。モデルチェンジを続けながら、医療現場の第一線で活躍を続けています。


血液は、私たちの身体の状態を映す鏡

「血液をはかる」方法については今も日夜、新たな研究が進んでいます。最後に野村さんに、血液検査の今後の展望についてうかがいました。

sub3はかる場:実際に血液検査の機器の開発にたずさわる野村さんにとって、血液検査の未来に対して、展望や希望をうかがえますか?

野村:血液検査がもっと身近なものになればいいなと思っています。血液以上に身体の状態を教えてくれるものはないからです。ただ血液は、現状は採血しないと検査できず、痛さもさることながら、なかなか家庭で手軽にというわけにはいきませんよね。血を採らずとも血液の状態を知ることができるようになれば、きっといろんなことが変わるはずです。

はかる場:採血せずに遠隔で血を検査するということですよね? 夢のような話に思えますが、研究は進んでいるのでしょうか?

野村:いろいろ興味深い話はありますね。造影剤を静脈に注射すると、心臓を経由して造影剤が身体の各部の血管に流れていきますが、その状態で身体に蛍光を当てると血流が見えるようになります。その影から赤血球などの流速を見たり、ヘモグロビンの値を見るという研究はされているようです。また、採血の代わりに体内にセンサーを埋め込んで、その値をスマホで読み取って血圧や血糖値を見ようという発想もあります。どちらにしても、身体に何かを入れる必要があり、実用化するのは簡単ではなさそうですが。

はかる場:SFみたいな話ですね。

野村:もし埋め込み方式で血液の状態を常にモニタリングすることができれば、いろんな可能性が広がります。たとえば心筋梗塞が起きる場合、発症の4時間ぐらい前には血流に異常が生じると言われています。つまり、4時間前の段階でその予兆に気づくことができれば、突発的な傷病を回避できるようになるわけです。

はかる場:事前に救急車を呼ぶこともできますね。

野村:そうなんです。心筋梗塞に限らず、血液に予兆が現れることは少なくありません。今はまだ常時モニタリングを実現する技術はありませんが、それでも年に1,2回程度は血液検査をして、自分の血液の状態を把握しておくことはとても重要です。血液検査では正常基準値が決められていますが、その範囲内に入っているから問題ないとか、入ってないから問題があるとは必ずしもいえません。正常値は一人ひとり異なるからです。注意しなければならないのは、今までずっと似たような値だったのが急に変化した場合です。何か問題が起きているかもしれないことを示すシグナルになります。そうした変化に気づくためには定期的に血液検査を受け、自分にとっての基準値を、一人ひとりが知っておくことが大事なのです。

はかる場:最後に、「血液をはかる」とは、私たちにとって、また野村さんにとって、いったいどういうものでしょうか。

野村:血液は自分の健康状態を写す鏡のようなものです。血液検査の数値は、どんなに繕っても化粧をしても隠すことはできません。その事実を私たち自身がしっかりと受け止めて、自分の状態を知っておくことが、健康に生きていくうえでは大切なんだろうなと感じます。

HORIBAは血液検査の世界に入ってまだ20数年です。他のメーカーさんに比べてもまだ若手の方だと思うので、これからもっともっと幹を大きくして、枝を伸ばしていく必要があります。血液検査をより簡単で便利なものにして、少しでも多くの人に手軽に受けてもらえるものにできるよう、自分ももっと貢献していきたいです。


次回は、HORIBAの「血球計数・CRP測定装置」が使われている病院を訪ねます。現場ならではのお話をうかがいつつ、実際に血液検査を体験レポートします。どうぞお楽しみに。

 

血液をはかる

>>血液をはかる[1] 検索項目は数百以上! 「まず血液を」が意味すること
>>血液をはかる[3] 「血液をはかる」とわかる無数のこと

Page Top