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血液をはかる[3]
  「血液をはかる」とわかる無数のこと

前回は、「血球計数・CRP測定装置」で行う血液検査の詳しい仕組みについてご紹介しました。最終回となる今回は、血液検査の現場を取材。京都市の公益財団法人京都健康管理研究会 中央診療所所長・長井苑子医師にお話をうかがいました。

はかる場編集部も実際に血液検査を体験。検査結果も踏まえながら、血液検査の「今」をお伝えします。


迅速! 「血球計数・CRP測定装置」で血液をはかってみた

今回の連載でもたびたびお話してきましたが、血液検査はとても身近なもの。あらためてその事実を確認すべく、まずは取材陣自ら血液検査を受けてみました。

test1検査の内容に合わせて必要な量だけ採血します。今回は、「血球計数・CRP測定装置」の検査に必要な2 ccを採血しました。痛みはほとんどなく、スムーズに終了。

test2採取した血液が入った「採血管」を、装置にセットします。血液のみ装置内に取り込まれ、空になった採血管がすぐに外に出されます。

test3血球の数やヘモグロビン量などの検査結果が画面に表示されます。結果がでるまで約4分。まさに迅速!

test4検査結果がすぐにプリントされます。白血球・赤血球・血小板の数、ヘマトクリット値(血液中に占める血球の体積の割合)、MCV/MCH/MCHC(貧血の種類を示す指標)、CRP(炎症の程度を示す指標)といった13項目に加え、白血球に関する詳しい情報を見ることができます。この内容を診断の材料にしていきます。

HORIBAの「血球計数・CRP測定装置」の特徴はなんといっても迅速さ。採血から結果が出るまで10分程度しかかかりません。検査結果がわかるまでに少なくとも数時間~数日を要することもありましたが、この装置を使えば再度結果を聞きに来る手間も省けます。また、何か問題が見つかった場合、その場で次の手を打つことも可能になりました。

では早速、結果を見ながら、現場ならではの血液検査事情をうかがいます。


病気の原因や、治療の効果を知るための血液検査

専門は呼吸器内科の長井さん。血液検査をどのような目的で役立てているのでしょうか。

sub1はかる場:さまざまな患者さんがいらっしゃるかと思いますが、長井さんのご専門だと一日にどれくらいの患者さんに血液検査をされますか?

長井さん:私は呼吸器内科医師で、診療所でも呼吸器の外来をしています。しかし、一般的な外来というよりは、サルコイドーシス、間質性肺疾患、膠原病(こうげんびょう)といった特殊な病気を専門に扱っています。サルコイドーシスは全身性疾患、間質性肺疾患は肺の疾患、膠原病は自己免疫疾患の一種で、呼吸器に種々の病変があらわれます。いずれも発症例は多くない難病で、外来としては特殊な診療になるため、患者さん一人あたりの診察時間が比較的長くなります。一日に多くても40人くらい、少ない時は20人くらいしか診ることができません。そのうち血液を調べるのは、概ね半分~6割くらいかと思います。

はかる場:血液検査を行うかどうかは、どのような基準で判断するのでしょうか。

長井さん:複数の視点から判断します。まず、炎症状態を調べなければいけない時は必要です。顔色が悪くてフラフラしていたり、貧血が疑われる方にも血液検査は重要です。たとえ貧血であることが明らかな場合でも、検査することでその原因がわかります。鉄分が不足しているせいなのか、赤血球が溶かされて起こる自己免疫性の溶血性貧血なのか、悪性疾患が隠れていないか、など原因が詳しくわかります。また、治療中の患者さんの治療効果を知るためにも使われます。ステロイドや免疫抑制剤の薬を入れたことで、血糖値が降下や上昇していないかなど、副作用の有無を調べるのです。

はかる場:血液検査は、はかる目的によって種類も異なると聞いています。

長井さん:今回体験していただいた「血球計数・CRP測定装置」を使った「迅速検査」では、血球やCRPだけを調べます。糖やコレステロールを調べるためには生化学検査までを行うケースもあります。何を調べるかによって必要な血液の量も異なり、前者の「迅速検査」だけであれば2 ccで十分、血糖値を調べるためには抗凝固物質を入れる必要があり、検査ごとに血液を別の採血管に分けないといけないので、必然的に採血の量も多くなります。大体、20 ccくらいが多いですが、場合によっては30 ccくらい採ることもありますね。


白血球やCRPが、思わぬ事実を教えてくれる

血液検査は患者さんの体の状態を明らかにします。それはその時だけでなく、普段の生活まで明らかにすることも。

sub2はかる場:今回の検査で私のCRPの値はゼロでした。CRPは感染症についての重要なマーカーですが、感染症にかかった場合、この数値はどのくらいまで上がるのですか。

長井さん:軽い風邪だったら0.6~0.9 mg/dlぐらいの値になりますし、気管支炎であれば2~5、一桁の動きが出てきます。肺炎など重症化していれば、10~20 mg/dl程度まで上がります。数値の大きさからある程度推測が立てられるので、CRPが高いからレントゲンを撮って確かめましょう、と、診断を進めていくことができます。また、咳や痰があるけれども、CRPが陰性の場合には、気管支の過敏性で喘息あるいは喘息様の症状が出ているので、感染症によるものではないという判断もできます。喘息、花粉アレルギー、喫煙による過敏性などと、細菌、ウイルスなどの微生物による気管支炎とを比較的容易に鑑別できるという利点を感じています。

はかる場:CRP以外にも12項目の数値が出ていますが、この中で特に注目すべき数値はどれでしょうか。

長井さん:やはり白血球の数ですね。たとえば、CRPも高く、熱もある状態で白血球が大きく増加していれば、細菌感染症の兆候だといえます。すぐに抗生物質を使おう、という判断ができます。白血球の数が減少していて、かつCRPが陽性ならば、ウイルス感染を疑うことができます。

はかる場:今回の検査では、白血球は5,300 /μlとなっています。これは100万分の1リットル中に白血球が5,300個あるということですね。

長井さん:はい、そうです。それくらいが正常な値です。白血球の数は、さまざまなことを教えてくれます。昔、予防医学センターの呼吸器外来に非常勤医師として勤務しながら、タバコ外来というのを8年くらい継続していたことがあるのですが、喫煙者は白血球が増えることを知りました。5,300という値が12,000くらいまで上がることもあります。そのため、白血球が多い場合でも喫煙者か否かで判断が変わってきます。喫煙者は禁煙すれば白血球の数が減りますし、非喫煙者であれば、炎症が起きて細菌感染などが起きているという可能性を第一に考えられます。

はかる場:これまで多くの患者さんに迅速検査をされてきたと思いますが、印象深いエピソードはありますか?

長井さん:私は慢性の呼吸不全の方をたくさん診ています。酸素が不足して、運動時の息切れ症状をはじめ、心臓への負担がかかる病気です。患者さんには出歩く時には酸素ボンベを携行し、酸素を吸うようにお願いするのですが、使いたがらない方も多いんですね。診察時に「酸素を使っていますか?」と聞くと、みなさん「使ってますよ」と言うのですが、検査で赤血球の数と血色素量・ヘモグロビンの数値を見ると本当かどうかがわかります。ヘモグロビンは体全体に酸素を送る役割を果たしますが、酸素の量が少ないと、酸素の量を増やそうとヘモグロビンが増えるんです。ですから、ヘモグロビンの数値が高いと、「きちんと酸素を吸っていないな」と推測できるんです。これは二次性多血症というのですが、一方である患者さんでは呼吸器の病気がないのにヘモグロビンが17 g/dl以上を示しており、真正多血症を疑って血液内科に送ったところ、診断が正しかったこともあります。また、ひどい貧血で迅速に胃カメラをして胃がんを発見できたこともあります。

はかる場:ごまかそうとしても、検査の数値を見ればわかってしまうんですね。

長井さん:そうなんです。リウマチの病勢を抑える薬として、リウマトレックスという、週に1回だけ服用して治療する薬があり、私はその薬をサルコイドーシスの患者さんにも使うことがあります。サルコイドーシスの治療にはステロイドが使われますが、副作用が多いため、できるだけステロイドの量を増やさないように、リウマトレックスを併用しています。その薬を使っていたある患者さんに迅速検査をしたところ、白血球が1,500、ヘモグロビンが7、血小板が1万~2万という具合に、血球がものすごく減っていたことがありました。驚いて、これは薬を間違って飲んでいるんじゃないかと思って聞いてみたら、「毎日飲んでました」とおっしゃって大慌てしたことがありました。そのまま知らずに服用していたら、本当に大変なことになっていたかもしれません。この薬は週一回のみ服用するという飲み方を指導していたのですが、患者さんが間違っていたわけです。常に、飲み方にもチェックをいれることが重要です。

はかる場:採血してすぐに結果がわかることも、重大なアクシデントを防ぐためには欠かせない要素ですね。

長井さん:検査センターに出していたら最低でも数時間から1日はかかるので、患者さんを長時間待たせるのか、後日来ていただくことになります。それがこの迅速検査だと10分で決着がつくので、その場で総合的に判断して速やかに次の一手を打つことができます。それは医者にとっても患者さんにとってもありがたいことですね。


血液検査の経過を把握することが重要

最後に長井さんに「血液をはかる」ことの大切さと、意味についてお聞きしました。

sub3はかる場:患者の立場として、血液検査のデータを有効活用するために心がけておくことはありますでしょうか。

長井さん:血液検査で大切なのは、一回一回の数値よりも、その経過です。どう変化しているかを知っておくことが大切です。特に、急性疾患では、一回の結果で判断が必要ですが、慢性疾患では、経過を知っておくことが重要です。健康状態や年齢によって、同じ数値でも持つ意味は変わってきます。たとえば、がんに関する数値が悪かったとしても、高齢であれば、次にどうすべきかを慎重に考えることが必要です。老化とともに、発がん性は増加するのが生物の宿命のようなものですから。一方、40代くらいの若い方ががんになって余命1年だなんて言われたら大変ですよね。そうならないためにも腫瘍マーカーなどを1年に一度くらいはかって経過を見て、数値が上がってきているようであれば、胃カメラや大腸内視鏡をする。そうすれば多くの場合、大事に至る前に手を打つことができるのです。

はかる場:特に具合の悪いところがなくとも、健康診断などで定期的に血液検査をすることはとても重要なのですね。長井先生にとって「血液をはかる」とは、どのような意味を持つのでしょうか。

長井さん:血液検査は、身体に起きている問題を知るための一番容易な方法の一つだと思います。針を刺すという小さい侵襲はありますが、必要な情報を得るためには過剰でもなく、過少でもなく、とても適した手段ではないかと思っています。私たちの病院では、必要に応じていろんな患者さんに血液検査をしており、その重要性を常に実感しています。患者さんにも血液検査の必要性と、その結果についてしっかりとご説明することを心がけています。ぜひ多くの方に、血液検査の重要性を理解していただき、普段から積極的に受けにきていただければと思います。もちろん、問診をして、血液の中のなにを調べる必要がありそうかを考えての採血ということです。


3回にわたってお送りしてきた「血液をはかる」。私たちの身体をめぐる血液が、いかに多くの情報を持っていて、その状態を知ることが重要だということを実感していただけたのではないでしょうか。HORIBAの野村さんは「血液は自分の健康状態を写す鏡のようなもの」、長井さんは「血液検査は、身体に起きている問題を知るための、一番容易な方法の一つ」とおっしゃいました。血液をはかることは、まさに自分自身を知ることなのだと言えそうです。

 

血液をはかる

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