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ゴミをはかる[2]
  有害?
  再生可能?
  安全なゴミ処理の第一歩は、「はかる」こと

私たちは日々の暮らしの中で多くのゴミを排出します。人口の増加とともに増え続けるゴミの量は、ゴミを出す人間に与えられた大きな課題です。リサイクルをはじめ分別の意識や仕掛けは進んでいますが、自分たちで処理できるものもあれば、処理に専門性を擁し、然るべき機関での処理が必要なものも。その代表格が産業廃棄物です。

前回は、この産業廃棄物の処理に「はかる」が役立つ、というところまでお話しました。非接触、非破壊で「はかる」ことができる、蛍光X線分析装置、それも持ち運びが可能なハンドヘルド型蛍光X線分析装置が用いられています。ゴミに含まれる成分を教えてくれるこの機器が、さらに明らかにする事実とは。HORIBAで同製品を担当している瀬川真未さんにお話をうかがいました。


産業廃棄物処理の第一歩 はじめに「ゴミをはかる」ことの意義

産業廃棄物の処理と聞いて、どんなイメージが浮かびますか? 大きな工場や大掛かりな機器を思い浮かべますが、ハンドヘルド型蛍光X線分析装置でゴミをはかることは、どのような役割を担っているのでしょうか。サイズがサイズだけに細かくなってから? いえいえ、反対です。最初期にこそ、使用されるべき機器なのでした。

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はかる場:産業廃棄物処理の過程において、ハンドヘルド型蛍光X線分析装置を用いてゴミをはかることが行われているとうかがいました。どのような工程で使用されるのでしょうか?

瀬川:産業廃棄物の約半分はリサイクルされています。ですから産業廃棄物の中間処理では、再利用することを第一に考えて、分別・選別、破砕・切断・圧縮、焼却などの工程があります。そこで最初の作業となるのが、リサイクルしやすいように廃棄物を適切に分けることです。再利用できるかどうかを見極める。有害物質が含まれていれば当然、再利用には回せません。そのためには、廃棄物に含まれている成分をチェックしなければなりません。ハンドヘルド型蛍光X線分析装置は、工程の早い段階で登場するんです。

はかる場:処理場に持ち込まれる産業廃棄物は実に多種多様です。どのように調べるのでしょうか。

瀬川:まず全体をざっとスクリーニングして、有害物質の有無をチェックします。そこで有害物質の含まれている可能性がある場合は、詳細分析に回します。このスクリーニングに使われているのがハンドヘルド型蛍光X線分析装置です。手持ちで使えるため、ゴミの形状やサイズ、はかる場所も選びません。

先端部分を廃棄物にできるだけ近づけ、持ち手の部分のトリガーを引くとX線が放射され、廃棄物からの反応で蛍光X線が出てきます。これを再び機器がキャッチし、成分を判別します。かかる時間はおよそ1分程度でしょうか。

はかる場:蛍光X線によって成分を分析するということは、以前はかる場でも紹介した「X線分析顕微鏡」と同じ仕組みなのでしょうか。

瀬川:その通りです。廃棄物にX線を照射すると、中に含まれている物質の原子とX線が相互作用を起こして蛍光X線が出ます。このとき出てくる蛍光X線は、各元素に特有なものなので、出てくる蛍光X線を調べればどんな元素が含まれているのかがわかるのです。また、元素によっては蛍光X線の強さをはかることで含有量までわかる場合もあります。

処理場には大量の廃棄物が持ち込まれるため、迅速に処理を行う必要があります。そこで求められるのは、有害物質が含まれているかどうかを手早く判別することです。有害物質が含まれていて、詳細分析をするとなるとコストも時間もかかります。まず有害物質が「ない」とわかることは、とても重要なのです。


有害物質は時代を超える……ゴミをはかることは安心・安全社会の盲点に気づくこと

不法投棄などのニュースと共に報じられることが多く、産業廃棄物すべてが有害に思えてしまうこともあります。実際には繰り返してきたように、再生利用が可能なものもありますし、また産業廃棄物に関する規制が進むことで根本的な解決策も多数講じられています。では、ゴミをはかることで見つけられる有害物質とは。

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はかる場:産業廃棄物処理の初期段階で使用されるということですが、選ばれる理由は何ですか?

瀬川:やはり手持ちで作業できる手軽さ、そして結果が出るまでのスピードがあります。さらに、蛍光X線分析という技術は非接触・非破壊で行えることが最大のメリットです。ゴミをいたずらに触ったり、崩したりすることで有害物質を発生させるリスクがあるからです。

また、X線は取り扱いに注意しなければなりません。操作部分はタッチパネルになっていて、スマートフォンのような快適な操作性を実現していますが、手にした人が誰でもすぐに作業できてしまわないように、パスワードでのログインが求められ、しっかりロックをかけられるようにして、安全に配慮しています。機器自体にカメラがついているので、どの部分を測定しているのかも一目瞭然です。

はかる場:測定するデータの取り扱いはどのようになっているのでしょうか?

瀬川:Wi-Fiを通じて測定結果をパソコンに転送することもできますが、機器自体に設定をしておけば規定した有害物質の量でアラームを表示させるなど、その場で判断できることがポイントです。たとえばヒ素の制限値を何ppmとあらかじめ設定しておけば、あとははかるだけで指定した危険の判断ができます。

そうそう、作業時は軍手など手袋をはめていることも多いですが、そのままでも反応できるようなタッチパネルを採用しています。また、Wi-Fiを通じてスマートフォンで本体と同様の操作ができます。現場向きの機器、といえますね。

はかる場:産業廃棄物処理の最初期のスクリーニング、実際にはどのような有害物質が見つけられるのでしょうか?

瀬川:産業廃棄物に関しては法律や規定も整備され、製造段階での改善も進んでいます。それもあり、中間処理の段階で発見され、問題となるものは古めの製品だったりします。身近な例を挙げると、液晶テレビですね。液晶テレビのパネルには、ガラスの消泡剤、つまりガラスに気泡ができるのを防ぐための添加剤としてヒ素やアンチモンなどの毒性物質が使われているケースが過去にありました。

はかる場:最近の製品では使われなくなりましたが、古いテレビ、つまり廃棄物として持ち込まれる古い製品には注意が必要なんですね。

瀬川:少しゴミからは外れますが、同じように古くなったものの処理として注目されているのが、木造住宅の廃材処理への活用です。木造住宅の土台部分に使われる木材は、基本的に防腐剤処理されています。ところが、その防腐剤に発がん性物質や重金属などの有害物質が含まれているケースがあります。

たとえばシロアリなどの害虫やカビによる腐食から木造住宅を守るために使われていたCCA系木材保存剤。これはクロム、銅、ヒ素を含みます。クロムとヒ素は発がん性物質として知られていますね。もっとも危険性が明らかになった現在は、国内ではほとんど使われていません。

はかる場:この先寿命を迎える木造住宅も多そうですし、無視できない問題ですね。

瀬川:まさにその通りです。1997年に水質汚濁防止法が改正されて、ヒ素の排出基準が強化されました。これによりCCAの使用は減少したのですが、問題はそれ以前に建てられた木造住宅で、CCAが使われている可能性があるのです。日本の木造住宅の平均寿命は一般に30年ぐらいと言われています。ということは、今から30年前、つまり1985年頃に建てられた木造住宅の解体がそろそろ始まっていることになります。それ以前に建てられたものも含めて廃材処理は要注意です。

産業廃棄物だけではなく、これから大量に出てくる住宅廃材の安全な処理のためにも、お役に立てればと思います。


最後に、ハンドヘルド型蛍光X線分析装置を使ってゴミをはかることへの期待をうかがいました。

sub3「産業廃棄物の処理は、工程を経ていくごとに大掛かりになっていきます。時間も、技術もコストもかかります。それゆえに、良くないこととわかっていても目をつぶってしまう、不法投棄のような問題も起きてしまっているんですね。ハンドヘルド型蛍光X線分析装置は、詳細分析のような働きこそできませんが、処理の初期段階で有害物質の有無を判別できるのが最大の利点です。持ち運びができるサイズで場所を選ばず、時間もかかりません。これによりまず有害物質が含まれている、詳細分析や相応の処理が必要なものをわけるだけで、とても多くのリスクが減らせるのではと思っています。産業廃棄物を安全に廃棄するための第一歩として、使用していただけたらと思います。」


取材の最後には「同様の技術がスマートフォンに搭載されたら?」など、家庭での実用化ができたらと、想像も膨らみました。それくらい身近なお話でしたよね。ゴミや廃材による汚染は、私たちの暮らし、住む家にすら大きく関係してきます。今、大きな課題となっている産業廃棄物処理の現場での「はかる」に注目しましたが、ゴミをはかること自体は私たちひとりひとりが関心を持つべきテーマなのかもしれません。気になった方は、明日の朝に出すゴミがどこへ行き、どこでどのように処理されるのか、そんなところから調べてみてはいかがでしょうか?

 

ゴミをはかる

>>ゴミをはかる[1] 安全に処理するために、ゴミの中身をはかる

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