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タイヤをはかる[2]
  触れずに温度をはかる“放射温度計”の仕組み

高性能なタイヤ開発のための試験において、走行中の温度測定は欠かせません。今回は、高速で回転するタイヤをはかることも可能な“離れたところからモノに触れずに温度がわかる”優れもの、放射温度計についてお話しします。


放射温度計の誕生

現在用いられている多くの温度計は、“物体の持つ熱エネルギーがその物体に接する他の物体に伝わる性質”を利用したもので、接触型温度計とよばれています。接触型温度計の原形を作ったのは、かの著名なイタリアの物理学者ガリレオ・ガリレイで、温度変化による空気の膨張・収縮を利用したものでした。その後さまざまな改良が行われ、現在はアルコールや水銀を用いた温度計が一般的に知られていますが、その原理は大きくは変わっていません。

従来型の接触型温度計でははかることが難しいもの、直接触れることができないものをはかることができる放射温度計。放射温度計の誕生のきっかけは、1800年、イギリスの天文学者ハーシェルによる赤外線の発見です。詳細は後述しますが、その後の研究でつくられるようになった高性能の赤外線センサを利用して、放射温度計が誕生しました。放射温度計は、被測定物の表面から放出される赤外線放射エネルギーを赤外線センサを用いて計測し、被測定物の温度をはかります。そのため被測定物に接触することなく、その物体の表面温度をはかることができるのです。それではその仕組みをもう少し詳しく見ていきましょう。


温度と伝導、放射温度計の原理とは

温度と伝導、放射温度計の原理とは寒さや暑さが厳しい時に気温を調べてみたり、体調が悪い時に体温計を使ったりと、私たちは日常生活で何気なく温度を測定します。そもそも温度とはいったいどういうものなのでしょうか? 全ての物質は原子や分子によって構成されています。これらの原子や分子は、その物質の温度が高い時には活発に、低い時には不活発に、絶えず運動しています。この原子や分子の運動エネルギーの平均値を熱エネルギーといいます。温度とは、物質の持つ熱エネルギーを数値化して表したものなのです。

放射温度計の仕組みは、熱エネルギーの伝わり方がベースにあります。熱の伝わり方には、「伝導」「対流」「放射」という3種類の形態があります。

 

 

1.伝導
「伝導」とは、互いに接触した物体において、温度の高いほうから低いほうへと熱エネルギーが移動することです。伝導によって、高温の物体と低温の物体の温度差は次第に小さくなり、最終的に温度が等しくなって熱エネルギーの移動は止まります。接触式の温度計では、このような伝導の性質を利用して対象物体とセンサが熱平衝(先述の温度が等しくなって熱エネルギーの移動が停止)に達した状態で温度を測定しています。

2.対流
「対流」とは、水や空気などの流体が暖められると軽くなって上昇し、冷やされると重くなって下降することによって循環する伝わり方。この循環によって熱が伝えられます。冷暖房の効率などで用いられる概念ですね。

3.放射
「放射」とは、その物質が持つ熱エネルギーを電磁波(可視光線や赤外線など)という形態で周囲に放出する現象のことですが、これだけではピンとこないかもしれません。例えばストーブに手を近づけるだけで、直接手を触れなくても暖かく感じることができますが、これは手がストーブからの放射エネルギーを感じ取ったからです。この場合は、手が赤外線センサの役割をしているわけです。これと同じ原理で、物体から放射される赤外線エネルギー量を赤外線センサが検知し、その赤外線の量から物体の温度を測定するのが放射温度計です。


放射温度計の仕組みと注意点

放射温度計の仕組みと注意点

放射温度計

物体から放射される赤外線エネルギーをセンサで検知し、その量で温度を測定する放射温度計。仕組みは変わりませんが、実ははかる対象の大きさや性質によって求められる仕様が異なります。キーワードは「標的サイズ(測定視野)」と「放射率」です。

放射温度計の計測エリアを、その測定距離における「標的サイズ(測定視野)」として表します。標的サイズは被測定物より小さなものを選ぶ必要があります。被測定物より標的サイズが大きいと、放射温度計は被測定物の周囲も含めて計測してしまい、正確な温度がはかれません。このように放射温度計の視野を被測定物が満たしていない状態を“視野欠け”といいます。

また、物体から放射される放射エネルギーの強度は、物体の温度だけでなく「放射率」と呼ばれる物体固有の係数によって決まります。このため、放射温度計で温度をはかる際には、あらかじめこの値を調べ、放射温度計に放射率補正値を設定しておく必要があります。例えば「人間の皮膚=0.98」「地上に生えている木=0.5〜0.7」「コンクリート=0.94」「水の表面=0.92〜0.96」などなど。放射率が正しく求められていないことも、誤差の要因になります。放射温度計に放射率を設定できる機能がなければ、正しい温度測定はできないということですね。


さて次回はいよいよ、実際に放射温度計を使ってタイヤを「はかる」現場をレポートします。

 

タイヤをはかる

>>タイヤをはかる[1] タイヤと温度のあつ~い関係
>>タイヤをはかる[3] 全日本学生フォーミュラ大会で「タイヤをはかる」(前編)
>>タイヤをはかる[4] 「タイヤをはかる」とレースの裏側が「見えてくる」

 

Photo by Thinkstock/Getty Images


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