これまで2回にわたり「タイヤをはかる」というテーマで、タイヤのグリップと温度のただならぬ関係や、離れても動いていても温度がわかる放射温度計の仕組みを見てきました。
百聞は一見にしかず。今回は、実際にタイヤの温度を計測してきました。自動車のタイヤにとって極限状態ともいえる、レーシングカーのタイヤの温度はどうなっているのか? 2013年9月3日~7日に静岡・掛川市で開催された「第11回全日本学生フォーミュラ大会」からの現地レポートです。
全日本学生フォーミュラ大会は、学生みずからが構想・設計・製作した車両で“ものづくりの総合力”を競い、次世代の産業を担う人材の育成を目的としたコンペティションです。レースで速く走らせることはもちろん、安全性や静粛性からコストまで、総合評価で競われます。
2003年の開始から11回目を数える今年度は、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど世界各国で開催されているフォーミュラSAEシリーズの日本大会として開催され、国内68・海外11の合計79チームが参加しました。うち6チームは電気自動車での参加です。
はかる場編集部は学生さんたちに混ざりながら、同大会のさまざまなエリアを取材しました。写真でレポートしていきましょう。
取材当日は、ブレーキ性能やドライバーが5秒以内に脱出できるかという安全面、騒音が基準値内に収まっているかなどなど、各種の車検が行われていました。
車検にパスし、車検証が発行されてはじめてレースに出走できます。
基準に満たない車はチームのピットで指摘箇所の修正をして再度車検に臨みます。スポンサー企業のベテラン社員が手ほどきする“修理工房”も設けられていました。
さて、いよいよこの日のハイライト、オートクロスです。レースは1周約800m、直線・ターン・スラローム・シケインなどからなる複合コースを約1分で走行し、最高時速は150 km/hを超えます。計4周のタイムを競い、競技ポイントが加算されるだけでなく、翌日行われた大会クライマックスともいえるエンデュランス(約20 kmを30分ほどで走行)の出走組み合わせを決める予選の意味合いもあり、とても重要なレースです。走行後のタイヤはいったい何℃くらいになっているのでしょうか。
はかってくれるのは、学生さん6人。タイヤの温度測定の手順を真剣な面持ちでブリーフィング。左から、立命館大学・安平さん、東京理科大学・金子さん、東京理科大学・楊さん、早稲田大学・ノさん、鳥取大学・石岡さん、早稲田大学・高根さん。
レース走行後のタイヤはレース前のタイヤから、どのくらい温度が上がるのか。比較のためにまず走行前の温度をはかります。
前後左右4輪とも、各タイヤの温度は44.2℃~52.0℃。
このとき、路面温度は46.9℃。タイヤとほぼ同じです。
レースから戻ってきた車のタイヤをはかります。最も高いところで59.8℃まで上がっています。
全部で20チームのタイヤ温度をはかりました。この日、最も高かったのは65.3℃。
もちろん、ただタイヤの温度をはかっただけではありません。前後左右のタイヤの温度を、走行中の状態に寄って負荷が異なる外側・中央・内側に分けてはかりました。なんとタイヤの内側と外側とで温度に差があることが判明。チームによっては内側が15℃以上も高い結果になるところがありました。
この日はタイヤの温度をはかるのとあわせて、排ガスもはかっていました。一酸化炭素や炭化水素のように人体に有害なガスがどれぐらい含まれているかや、空燃比(空気と燃料と比率)は最適に調整されているかなどが、数値で一目瞭然です。
※排ガス測定結果の例
ミッションを終えてホッとした瞬間。学生さんたちはこの後も、いろいろな「はかる」に興味津々の様子で、長い間測定ブースで話し込んでいました。
その中の一人、東京理科大学の金子さんと、同大学のチームキャプテンをされていた安藤さんにお話をうかがいました。次回は日ごろから「タイヤをはかる」ことに携わっている方の生の声から、「タイヤをはかる」意義や可能性を探ります。
タイヤをはかる
>>タイヤをはかる[1] タイヤと温度のあつ~い関係
>>タイヤをはかる[2] 触れずに温度をはかる“放射温度計”の仕組み
>>タイヤをはかる[4] 「タイヤをはかる」とレースの裏側が「見えてくる」