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動物の健康をはかる[3]
  動物の血液をはかる

共通言語を持たない人間と動物とのコミュニケーションにおいて、こと健康に関する部分で血液検査の果たす役割はとても重要です。自ら痛みや苦しみを言葉にできない動物たちの声を、血液検査の結果が代弁してくれるのです。

前回は「血液をはかる」ことについて、仕組みと意味をご紹介しました。基本的な考え方は人間も動物も変わりませんが、少なからず異なる点があります。今回はHORIBAで動物の医療機器を担当している瀬川鈴菜さんに、「血液をはかる」うえで人間と動物での違いをうかがいました。


人間と動物、動物の品種、同じ血球数でも診断結果は個体差で異なる

OLYMPUS DIGITAL CAMERA当然ながら大きな相違点として、まず人間と動物ではカラダの組成が違うことが挙げられます。瀬川さんのお話もそこから始まりました。

瀬川さん: 人と動物とで大きく異なるところで、赤血球の数や白血球の数といった、血球自体の総数が明らかに違います。また「犬」とひとくくりにされることも多いのですが、犬種などによっても違ってきます。たとえば元々走ることがメインの猟犬は、酸素を多く必要とします。そのため酸素を運搬する役割の赤血球が、ひとつひとつとても小さく、数自体がとても多くなっています。一方で猫は、じっと待って瞬発力でガバッと獲物に飛びつかないといけないので、血管の収縮率がすごく高かったり。いろんな要因で基準が異なるため、多少の個人差はあっても種としての差がない人間より難しいんですね。

はかる場: 考えたこともありませんでした。ペットを飼う人たちにとっては常識なのでしょうか?

瀬川さん: そうとは言えないですね……。動物の病気については「好発品種」という考え方があります。”よく起こる”という意味で「好発」、ある病気が一定の品種でよく起こるというデータがあるんです。たとえば胴の長いダックスフンドやウェルシュコーギーは、腰に負担がかかるのでヘルニアをはじめ、腰の病気になりやすかったりとか。

本来コーギーは狐狩り、ダックスはアナグマ狩り用の犬だからそれなりに赤血球も多く、運動量を多くしてあげないと太っちゃうんでんすよ。でもどちらも可愛らしさがすごく立つ犬種なので、飼い主さんがカワイイカワイイとついついおやつを与えたり、小さいので散歩も少しでいいやと思われがちで太ってしまうと。太ってしまえば腰に負担がかかっちゃって、ヘルニアなどの病気になってしまうという。実は私、きちんと育てられた正しいボディコンディションの子たちをあまり見たことがなくて、みんな太ってるんです(苦笑)。

はかる場: なるほど(苦笑)。血液をはかることで得た結果に対し、品種などの要因が関わってくるんですね。

瀬川さん: そうです。人間だとヘマトクリット値は男性で38~50%、女性で34~45%が基準値なのですが、猟犬のダックスの場合60%程度で正常。これは人間だと濃すぎる血、ドローっとした血なんです。獣医さんは検査結果をさまざまな観点から診られるんです。

 

※血液中に占める血球の容積の割合を示す数値


動物の血液をはかる際に求められる「精確さ」「迅速さ」「低侵襲」

OLYMPUS DIGITAL CAMERAHORIBAの動物用自動血球計数装置は、「精確さ」「迅速さ」「低侵襲」と3つのキーワードをメリットとしています。ここにももちろん、相手が動物だからこその理由が隠されています。

はかる場: 多くの動物は人間よりも小さく、弱い生き物です。「低侵襲」であることは人間のそれよりも重要であり、動物の血液検査でも同様だと思うのですが。

瀬川さん: もちろんそうですよね。人間の血液検査のように2ミリリットルを5本など一度に抜いてしまったら、それだけで致死量という子もいますから。室内飼いや小型犬の需要が増えてきていることもありますし、微量で検査ができる技術は以前よりも求められています。HORIBAの動物用自動血球計数装置では検査に必要な検体吸引量はわずか10μL。測定時間も検体吸引後わずか約70秒と、その場ですぐに結果を知ることができます。

はかる場: 「迅速さ」も売りにされてますよね。前回記事にも書きましたが、動物の病気の進行は人間よりも速い。

瀬川さん: 人間の場合、血液検査の結果がその場でわかる機器を導入されているクリニック(開業医)は全体の3割程度なんですが、動物病院においては実に8割。この普及率自体が動物の治療におけるスピード感の重要さのあらわれだと思います。私たちが病院で検査してもらい「1週間後に結果を聞きに来てください。」ということは普通ですが、動物はその1週間が1か月と同じ。人間でも診察後1か月も結果を待っていたら、最悪死んしまうかもしれないですよね。だからできるだけ早く院内で確認して、適切な処置を少しでも早くしてあげることが大切なんです。

動物用自動血球計数装置

はかる場: 3つのメリット、最後の一つ「精確さ」についても教えていただけますか?

瀬川さん: これは人間の血液をはかる機器でも同様なのですが、採取した血液は機器の中で必ず2回以上測定します。2回の値が異なれば機器が自動で判断し、3回目を行います。1回目と3回目、もしくは2回目と3回目が一緒であれば、3回中2回が一緒でしたよ、と返しますが、3回ともバラバラだったら検体自体の異常か検体の混ぜ方が足りない可能性もありますので、目視で確認して下さいねというマークを出すことにしています。

また動物特有の病気を診断するため、試薬を変える工夫も行っています。動物は直接土に接触したものを食べることもあり、人と比べて寄生虫にかかる割合が高いんです。人間用の自動血球計数装置ではリンパ球、顆粒球、単球の三分類ではかりますが、動物用ではアレルギー指標となる好酸球(顆粒球のひとつ)も見られるようになっています。大型の機器であれば同様に顆粒球を詳細にはかり、好中球、好酸球、好塩基球に分け、5分類まで調べるものもあります。血液検査は検査の初期段階で行われ、実際お医者様も血球の数値を重要な指標のひとつとされています。そのためにも目的や条件にあったやり方で、正しく広く病気の可能性を見つけられるような装置を提供できるよう、心がけています。


今回瀬川さんにうかがった「動物の血液をはかる」こと。前回お伝えした、人間を含めた「血液をはかる」仕組みと合わせ、身近な検査でありながらもなかなか知りえないものだったのではないでしょうか? 家族の一員ともいえるペットのために、瀬川さんは「正常値を知っておく」ことの大切さを説かれます。

「診断結果で毎回一喜一憂するのではなくて、健康だった時のデータと照らし合わせてみてほしいです。病気と診断されなくても、健康時の値と比べて中性脂肪の値が高ければ痩せるためのサポートをしてあげたり。最近では人間ドックならぬドッグドックやキャットドックも増えています。まずは健康な状態で一度連れて行って、正常な数値を知っておくといいですね。」

物言わぬ動物たちの健康を守るためには、言葉以外でのコミュニケーションによる”気づき”が必要です。血液をはかることが果たす役割はとても大きなものだと言えそうです。

次回「動物の健康をはかる」最終回では、動物医療の現場にて獣医さんを取材します。

 

 

動物の健康をはかる

>>動物の健康をはかる[1] 意外と知らない“ペットの健康
>>動物の健康をはかる[2] 「血液をはかる」意味と仕組み
>>動物の健康をはかる[4] 動物医療の最前線で「動物の健康をはかる」意味を知る

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