SENSORIUM TopHORIBA Online
未来通信

<すばる望遠鏡>

自分の宇宙を広げる
写真
写真
【毎晩のように試験観測が続く。月明かりがドームを照らしている。】

自分の宇宙を拡げる
<すばる望遠鏡>(ハワイ島)

今回は、最近完成したハワイ島のすばる望遠鏡を取材したときのことを書いてみよう。NHKの番組であの素晴らしい映像を見た人も多いかもしれない。すごかったよね。140億光年の彼方の天体まで見えてしまうんだから。


「すばる」は、ハワイ島マウナケア山の山頂にある。標高は4200メートル。
頂上へは、ハワイ島の東海岸にある古き良きハワイの面影を残した街ヒロからクルマで約2時間の道のり。途中、2800メートルにあるハレポハク中間宿泊所で高度順応のために30分ほど時間を過ごさねばならない。そこからは舗装されない道を4WDのクルマで登っていく。


頂上の気圧は地上の60%。僕が訪れた3月の初旬は、気温が0度前後。年間平均7メートルという強い貿易風が吹いている。3000メートルあたりからは、植物もまったく見られなくなり、赤茶けた大地が続く。まるで火星の上にいるかのような風景だ。とても常夏のリゾート、ハワイとは思えないよー。人間にとっては、まさに過酷な環境。実際に高山病にかかる人も多い。撮影機材を持って歩くと、ほんの数歩で、もう息が切れてくる。でも、天体観測にはこうした過酷な環境こそ向いている。雲の上に出てしまうので、晴れの日が多く、空気も澄んでいる。赤外線観測の大敵である水蒸気も少ない。月さえ出ていなければ、毎日満天の星空が拝めるわけだ。そんなわけで、ここには大小合わせて11もの天文台が作られており、さながら望遠鏡村。この一角に、銀色に輝く「すばる」のドームが立っている。

写真
【朝。雲海に映っている三角の影は、マウナケア山のシルエット。】

「すばる」望遠鏡は8年間かけて建設された。「すばる」の反射鏡はその大きさが8.2メートル。これはつなぎめの無い一枚鏡としては、今のところ世界最大。でも、まぁみんな世界最大を競っているわけでもなさそうで、実際21世紀初頭には、世界で7台の8メートル望遠鏡が完成することになっている。これまでは1948年に完成したパロマ山の5メートル望遠鏡しかなかったから、50年ぶりに大きな望遠鏡が次々と完成することになるわけ。
「すばる」が完成したのは、去年の12月。クリスマスイブに星の光を初めてとらえた。その後、1ヶ月にわたり、望遠鏡の基本性能を確かめる観測が行われて、今年の1月末に最初の美しい画像が発表された。その画像はこちらでご覧あれ。
すごいよね、これでまだ試験段階なんだから。今年一年は研究者達が試験観測を行って、望遠鏡の操作や画像処理のノウハウをためたり、様々な観測装置の性能チェックなどを行って、どんどん観測の精度を高めていく。だから、来年になったら今よりもっと精細な宇宙の画像が次々と発表されるに違いない。それは、ほんとうに楽しみだ。


さて、国立天文台の教授で、ハワイ観測所の所長である海部宣男さんがとても心に残ることを話してくれた。ちょっとそれをかいつまんでご紹介すると、


「宇宙に果てはあるんですか?」という質問をよくされる。
でも、私は「宇宙の果て」というのは存在しないのではないかと思う。あるのは、私たち人間の「認識の果て」、「観測の果て」なんだと思う。
「すばる」はその「観測の果て」を確実に拡げてくれる望遠鏡だ。
認識の果てという事で言えば、「ひとりひとりの認識の果て」があるわけで、つまり「ひとりひとりの宇宙」があるということじゃないか。
私は、日本に住んでいたけれど、ハワイにきて、自分の宇宙(世界)が拡がった。
「ひとりひとりが、自分の宇宙を拡げる」ことってとても大事なんじゃないか。
「すばる」は科学的な研究のために作られたが、そうした「自分の宇宙」を拡げることにも役立つことが最近わかって、ちょっと嬉しい。


というような感じ。この話は、僕の心にも強く残った。これはきっと実感なんだろうなと思う。NHKの番組を見た人からの感想にも、「自分の宇宙が拡がった!」というものが多かったのだそう。一般の人もそう思ったのだから、きっと現場の研究者たちはもっとその感動が大きかったんじゃないかと思う。何しろ、海部先生の顔が嬉しそうだった。「すばる」が撮影した画像を僕たちに見せながら、「いやー、こんなのが見えたのは初めてのことなんですよ!」って。


大きい望遠鏡を作れば、確実に「今まで見えていなかった宇宙」が見えてくる。21世紀には、全部で7台になる8メートル級の望遠鏡。ハッブル宇宙望遠鏡の次世代機も既に検討されいてる。(8メートル望遠鏡を宇宙に上げる!というもの)これらの新しい望遠鏡の観測によって、あと数年もすれば僕たちの「宇宙に対する認識」は確実に広くなっていると思う。


上田壮一/写真・文


■ 戻る



(c)Copyright 2003 HORIBA, Ltd. All rights reserved.