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未来通信 地球史を解読する

西暦も2000年を超えて、世の中にはミレニアム(1000年紀)という言葉が溢れているけれど、今回は、ミレニアムとか新世紀とか、そんな時間感覚が吹っ飛んでしまうような話をしてみたい。時は、遙か2億5千万年前に遡る。その時、地球生命は史上最大の危機を迎えることになった・・・。


2奥5千年前の大事件
その頃、地球は一つの「超大陸パンゲア」と、一つの「超海洋パンサラサ」だけが存在していた。地質年代で言うと、古生代ペルム紀と中生代の境界にあたる。ペルム紀というのは、地上には裸子植物が拡がり、「ほ乳類型は虫類」と呼ばれる小動物が繁栄し、浅い海には三葉虫やフズリナやサンゴが生きていた時代。恐竜が生まれるよりもずっと前のことだ。このペルム紀の終わり頃、地球にとてつもない大事件が起きたことがわかっている。

40億年前に生命が誕生して以来、惑星地球には様々な事件が起き、生命は危険にさらされてきたが、その都度なんとか生き延びてきた。
しかし、このペルム紀の終わりには、なんと96%の生命が死滅するという、生命史上最大の大量絶滅事件が起きたのだ。生命にとっては、その存続に関わる最大のピンチだった。(実際には、その災厄を生き延びたから、我々が生きているのだが。)

絶滅と言えば、6000万年前に起きた「恐竜の絶滅」が有名だけど、2億5千万年前の、この大量絶滅と比べると、恐竜の絶滅は「全くたいしたことがない!」ということになる。まぁ、ともかく想像を絶する大事件だった。
で、これは専門外の僕たちの想像を絶するだけでなく、科学者にとっても想像を絶する事件だったらしく、実は今もまだ、この事件の真相は謎に包まれたままだ。殺人事件が起きたことは分かっているのだけれど、まだその犯人が捕まっていないという状態。

でも、この10年ほどの間に、日本人の研究者の活躍もあって、ようやく犯人の目星がつきつつある。東京大学の磯崎行雄助教授もそうした研究者を代表する一人。この2億5千万年前の大量絶滅の犯人(原因)を特定する重要な手がかりが、日本にあると聞き、磯崎先生に案内していただくことになった。

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写真1
木曽川中流域(岐阜県各務原市)


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写真2
チャート層が拡がる河原


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写真3
押し上げられて、かなり褶曲している


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写真4
マリンスノーが積もった結果とは、とても思えない


●ミランコビッチ周期
本題とは、あまり関係ないのだが、写真4を見ると、チャート層が4〜5センチずつぐらいの周期的な層でできていることがわかる。実は、この層の繰り返しはミランコビッチ周期と言われる周期に一致している。ミランコビッチ周期は、太陽のまわりを回る地球の軌道に起きる周期的な変動のことで、これが地球の自然にも大きな影響を与えていることが70年代に実証された。この写真には、マリンスノーの堆積だけでなく、約2万年周期で起きている宇宙規模の地球の挙動も写っているというわけ。


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写真5
厚さ4cmで2万年分のマリンスノー


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写真6
左下が黒い色をしているチャート層


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写真7
左側の黒い層がペルム紀の酸素欠乏期、右側の赤い層が中生代の酸素回復期


木曽川の中流へ:チャート層の正体
手がかりが在る場所として案内されたのは、岐阜県と愛知県の県境を流れる木曽川の中流域。犬山地域と呼ばれるところ。(写真1)
この付近の河原には、チャート層と呼ばれる赤い地層が露出している。(写真2〜4)このチャートが、2億5千万年前の大量絶滅の謎を解く重要な手がかりとなったのだ。しかし、こんな岩のどこが?という疑問が沸く。地質学者の心眼を持ってしか、その秘密は見えてこないのだ。

チャートという石は、北海道から沖縄まで、日本中のどこでも見つかる、ありふれた石だそうだ。金魚鉢の底に敷かれている玉砂利の中にも入ってる。なーんだと思ったのも束の間で、磯崎先生から、その正体は、数億年かけてゆっくりと海底に降り積もったマリンスノー=「プランクトンの死骸」だと聞かされて驚いた。
顕微鏡で見ると、ぎっしりつまったプランクトンの死骸が見えるらしい。

プランクトンの化石はこんなイメージ

しずしずと、数億年の歳月をかけて5000メートルの深海底に降り積もるマリンスノー。その堆積速度は、1000年間に2mm〜4mm。1000年に2mmというのは、1年に2マイクロメートルということ。メチャクチャ遅い。でも石の上にも3年、いや海の底にも2億年。それだけの時間が経過すると、マリンスノーだって400メートルの厚さの地層になってしまう。
僕は、このチャートを、ひとかけら砕いて持ち帰ってきた。(写真5)
手の平に乗っている、このかけらの厚さは約4cm。こんな大きさでも、2万年分の時間が閉じこめられている。凄い。

さて、そのマリンスノーが降り積もった海底は、太平洋のど真ん中、中央海嶺から生まれた海洋プレートに乗って、これまたゆっくりと移動する。そして、こちらも数億年かけて日本列島にたどりつき、大陸プレートにぶつかって押し上げられる。そして、はるか5000メートルの海底にあった、マリンスノーの雪原が、木曽川の河原に顔を出して、我々の目に触れているわけなのだ。

チャート層のできかたの概念図はこちらを見てみて

酸素欠乏の証拠発見
チャートの特徴である赤い色の理由は、植物プランクトンが光合成によって出した酸素と、鉄分が結びついてできた酸化鉄・・つまりサビの色。
日本にはありふれた、このチャート層なのに、何故この犬山地域のチャートが注目されたのか。それは、この「色」に理由がある。実は、この犬山のチャート層の中に、「赤くない」層が見つかったのだ。(写真6)

磯崎先生らが調べてみると、ちょうど2億5千万年前頃の層が、赤ではなく、黒い地層になっていた。チャート層が赤くなるのは、酸素によるサビが原因だったわけで、それが赤くならないということは、海底が酸素欠乏状態に陥っていたということになる。これを、スーパーアノキシア(超酸素欠乏)と呼び、2億5千万年前の地球の様子を知る重要な手がかりとして注目を浴びた。黒い層の厚さから計算すると、およそ2000万年もの長期間、海底に酸素が欠乏していたことになるのだそうだ。(写真7)これは地質学上の大発見だった。

事件解決の3つのカギ
2億5千万年前の絶滅事件の解決には、これで3つのカギが存在することになった。ここで整理してみると・・・
  1. 96%にも及ぶ、生命の大量絶滅が起きたこと。
  2. 超大陸パンゲアが存在していたこと。
  3. 2000万年に及ぶ、海底の酸素欠乏状態が続いたこと。
現在、この3つのカギを結ぶ重要参考人として、「プルーム」の存在がにわかに注目を浴びている。プルームとは何だろうか?

「プルームの冬」仮説
1970年代までは、プレートテクトニクス理論が、惑星地球の挙動を読み解く最も重要な理論だったが、この理論では地上100kmほどの固い岩盤の動きは分かっても、その下に続く6000kmもの厚さに及ぶ地球内部の様子までは分からなかった。
80年代になると、地震波トモグラフィとよばれる、地球を透視する技術によって、内部構造が次々と明らかになってくる。その結果、現在では地球内部にはプルームと呼ばれる、幅1000kmにも及ぶ巨大なきのこ状の対流があることがわかってきたのだ。この新しい理論は、プルームテクトニクス理論と呼ばれている。


地球の内部構造

●未来の超大陸 
ヌーナ、ロディニア、ゴンドワナ、パンゲア・・これらは全て超大陸の名前。超大陸はこれまで、地球の歴史の中でも何度も生成と分裂を繰り返している。
では未来はどうなるんだろう。実は、今、中国大陸の下に、下降する巨大プルームがあることがわかっており、未来には全ての大陸はアジアに集まり、そこに新しい超大陸が生まれると予言されている。まぁ、2億年後の話ではあるけれど。

●今も、一つの海に一つの大陸 
ところで、現在の地球が元々一つの大陸だったというのは、20世紀の偉大な天才建築家、思想家のバックミンスター・フラーが作ったダイマクシオンマップを見れば一目瞭然。この地図を見ると、実は、今も地球には一つの大陸と一つの海しかないことがよーくわかる。
さて、2億5千万年前の大量絶滅事件は、このプルームが、当時の超大陸パンゲアの下から上がってきて、地上にまで達し、大陸をバリバリと引き裂きながら、超弩級の火山活動を引き起こしたことが原因ではないか、と考えられている。
大規模な火山活動が吹き上げた粉塵が、成層圏にまで達し、数千万年に渡り地球を覆い尽くし太陽光を遮り、植物や植物プランクトンが光合成をすることができなくなる。その結果、酸素が海底に届かなくなったのはもちろん、多くの生命が死滅することになった。それは核の冬ならぬ、まさに「プルームの冬」と呼べる光景だっただろう。磯崎先生は、さらなる証拠を集めるために、中国に赴き、当時のプルーム上昇の痕跡を探す調査を始めている。この仮説の実証はまだまだこれからなのである。




今回の話はこれでおしまい。僕は、この話を聞いてかなりぐっと来てしまった。「すばる」や「ハッブル」が見た遠い天体の鮮やかな姿にも、世界が拡がる気がしたけれど、足下の地球内部の様子が、鮮やかに描き出されているのを知って、これまた世界が拡がった気がした。科学の知識は、もちろん鵜呑みにしていいものではない。実際には「プルームの冬」も仮説であり、ちゃんと証拠が見つかり、理論的にも実証されねばならない。正しかったと言われる理論も、時を経て覆されることもしばしばある。しかし、科学が今も、この世界に対する僕たち人間の、認識の幅を拡げていることは確かだ。
今、手元にある小さなチャートの石ころを見ながら、これが2億5千万年前に深海に降り積もったマリンスノーなんだ、ということを想像するのは、僕にとっては、ちょっと嬉しいことなのだ。

上田壮一(文/写真)

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