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野菜のおいしさをはかる[2]
  野菜の成長とおいしさを左右する「硝酸イオン」をはかる

人が食事で感じる「おいしさ」は、どうしても人それぞれ。客観的な評価ができないものかと、古くから研究が進められています。前回お話したように、おいしさを感じるメカニズムや、基本となる味を構成する成分はすでにさまざまな形で明らかにされています。一部では「はかる」ことで数値化することにも成功しています。

今回は野菜の成長とおいしさに影響を与える「硝酸イオン」を「はかる」ことをテーマに、もう少し深く掘り下げていきましょう。硝酸イオンをはかることができる「硝酸イオンメータ」を製造・販売しているHORIBAから、小松佑一朗さんにお話をうかがいました。


なくてはならない存在……野菜にとって「硝酸イオン」とは?

なぜ硝酸イオンをはかることが野菜のおいしさに関係してくるのか。それを知るためにまずは、硝酸イオンと野菜の関係からうかがいました。

komatsu2はかる場:硝酸イオンをはかるお話の前に、硝酸イオンと野菜の関係を教えていただけますか?

小松さん:はい、もう少し手前にさかのぼりますね。野菜を含む植物は、土壌や肥料、日光、大気中の物質などから必要な要素を取り込み、栄養にします。野菜の栽培では肥料が欠かせませんが、特に「肥料の三要素」とも呼ばれる窒素・リン酸・カリウム、この3つを多く要します。窒素成分は、主に畑でつくられる植物に硝酸(NO3)の形で摂りいれられます。葉をつくったり、植物を成長させる作用があります。

はかる場:野菜にとってはなくてはならないものなんですね。

小松さん:根っこから吸収され、日光のエネルギーなどを使いながら有機物化します。葉や茎になったり。二酸化炭素を材料にした光合成をイメージしてもらえばわかりやすいと思います。人間でいえば、ご飯を食べて筋肉をつけるような過程ですね。

はかる場:前回の記事では、肥料を与えすぎると土壌中の硝酸イオンが増加し、野菜が吸収しすぎると野菜自体を傷めてしまう可能性について触れました。

小松さん:はい。肥料には三要素がしっかり摂れる量含まれていますので、やりすぎてしまうと必然的に硝酸イオンも増えます。野菜は根っこから養分を吸収するので、まずこの根っこが傷んでしまいます。傷ついた箇所は病原体が入りやすいので、結果野菜自体が病気になる、弱ってしまう。これも先ほどの人間の例で考えればわかりやすいです。いくら食べ物にめぐまれていても、それらを全部食べたら食べただけ、成長するわけではないですし、健康になれるわけでもないですよね。場合によっては、これらの要素をはじめから多く含んだ土壌も存在しますし。いわゆる肥沃な土地というやつですね。そのような環境であればそもそも肥料の量が少なくて済みます。


硝酸イオンが野菜のおいしさを左右するポイント

komatsu1はかる場:硝酸イオンを多く吸収しすぎると、野菜に「苦味」や「えぐ味」が残ってしまうそうですね。

小松さん:人が苦味を感じる物質にはさまざまな要素があり、硝酸イオンもそのひとつ。主に葉物野菜においては硝酸イオンの占める割合が多く、これが苦味の原因になっています。硝酸イオンを吸収する量が多ければ必然的に野菜に含まれる量も多くなります。硝酸イオンは葉をはじめとした植物の「体」をつくっていく過程で使われるものですが、過度に吸収しても使い切れずに残ってしまうんですね。これが肥料をあげすぎた野菜に「苦味」や「えぐ味」が残る原因です。

はかる場:ここで「硝酸イオンをはかる」ことと「野菜のおいしさをはかる」ことがつながりますね。

小松さん:そうですね。前提として窒素・リン酸・カリウムをはじめとした肥料は、野菜の成長に欠かせません。しかし、農家の方々は野菜を育てるだけではなく、おいしい野菜として出荷し、消費者に届けたいと思って生産されています。そこで本来成長のために消費されるべきものがうまく使われず、「苦味」や「えぐ味」として残ってしまうのは避けたいですよね。

はかる場:となると、野菜のおいしさのために硝酸イオンをはかる現場はやはり、農家さんですか。

小松さん:高付加価値野菜と呼ばれるような、“こだわり”を前面に押し出している農家さんでの利用が多いです。作物でいうと、硝酸イオンが葉の成長に関与していることもあり、ほうれん草や小松菜などの葉物の栽培で多く使われています。土壌のチェックはもちろん、出荷前に出来上がりを確認される際にも。一部、スーパーマーケットでも導入されているところがあります。生産者と同じように高付加価値を謳っているお店ですね。売り場に並んでいるものの品質を保ったり、バイヤーさんが入荷時の品質をそろえるために、といった具合です。

ある数値より上だったら「苦い」、下だったら「苦くない」と絶対的な基準があるわけではありません。生産者や販売店それぞれに基準を設けられ、どちらも目的はお客様に安定して「おいしい野菜」を届けるために「はかる」技術が使われています。


実践! 野菜の硝酸イオンをはかる

はかる場:それでは実際に「硝酸をはかる」方法についてうかがいます。基礎的なことですが、仕組みを教えてください。

小松さん:今日は「LAQUAtwin(ラクアツイン)」という硝酸イオンメータを使って、野菜の搾り汁をはかります。野菜の水分中にどれだけの硝酸イオンが溶けているのかを調べるんです。量ではなく、mg/l(ミリグラム・パー・リッター)という単位で、1リットル中に何ミリグラム溶けているかという割合で表します。また、葉や茎、野菜の部位によって硝酸イオンの量が違うため、まんべんなくいろんな箇所を調べるケースが多いですね。

 

vege2_12搾り汁を先端に入れます。今回はレタスを使いました。

vege2_4蓋をして……

vege2_5絞る! 十分な量が出るまで絞ります。

vege2_7あとは出てきた値を読むだけ。カンタン!

 

はかる場:測定にかかる時間はどれくらいなんですか?

小松さん:だいたい1分以内で終わります。

はかる場:早いですね! 簡単に言うと、対象となる野菜の水分から硝酸イオンだけを見つけるということですよね?

小松さん:そうですね。硝酸イオンによく反応する膜が作用します。LAQUAtwinのラインナップには、同じくイオンをはかるものではナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン。それ以外にもpH、塩分、電気伝導率をはかるタイプがあり、全部で7種類あります。それぞれ対象に適した仕組みで知りたい成分を数値化します。

はかる場:このコンパクトさは魅力ですよね。

小松さん:現場に持ち込めるところで好評いただいてます。かつては大型だったり、pHだと試験紙を使わざるを得ませんでした。しかし試験紙ですと、相手が野菜だともう、試験紙自体に野菜の色が移ってしまったり。夜間や悪天候の中でしたら結果を確認するのも一苦労です。試験紙代も節約できますしね。

小松さんは実は、LAQUAtwinシリーズの生みの親(!)。今回の硝酸イオン計だけでなく、7つのラインナップすべてを使って世の中のあらゆる「はかる」に挑戦されています。その模様を近日、「はかる場」の新連載としてお届けしますので、乞うご期待!


理想の“おいしい”野菜は「食べる薬」?

komatsu4はかる場:やはり肥料のやりすぎが起こる要因としては、大量生産や生産を急ぐことが考えられるのでしょうか?

小松さん:中には根っこが傷ついていても出荷してしまう農家さんもいると思います。しかし、肥料のあげすぎは土壌自体をダメにしてしまうこともあります。

はかる場:硝酸をはかる意味、硝酸をはかることが野菜のおいしさに果たしている役割はそのあたりにありそうですね。

小松さん:おいしくて健康な、体に良い野菜をつくってほしい、ということですよね。野菜を育てるために肥料として必要、だけどあげすぎるとおいしさを損ねてしまう。硝酸をコントロールしなくてはいけない。そのために「野菜とお話ができる」ためのツールとしての「はかる」というか。

おいしさと健康はイコールだと思います。継続して食べることができて、健康にも寄与してくれるような。「食べる薬」と呼ばれるような野菜が究極の目標ですね。「硝酸イオン」と「苦味」をはじめ、味や性質を左右する成分を「はかる」ことは、そのためのお手伝いができるのではと考えています。


なぜ、野菜の硝酸イオンをはかるのか? その答えから、硝酸イオンが野菜の成長とおいしさの両方に左右する、とても重要な存在であることがわかりました。だからこそ、野菜と硝酸イオンが良好な関係であるためには「はかる」ことが欠かせない、というわけです。次回は、野菜の成長とおいしさのために硝酸イオンをはかる現場、農家さんに取材します。

 

野菜のおいしさをはかる

>>野菜のおいしさをはかる[1] 「おいしさ」を「はかる」ことはできるの?
>>野菜のおいしさをはかる[3] おいしい野菜を届けるために「はかる」

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