熟練の寿司職人ともなると、寿司一貫のシャリの重さを、グラム単位ですべて同じ重さに握ることができるそうです。この場合の「はかる」技術は、長年の修行の賜物であり、おいそれと一般人にマネできるものではありませんね。
お寿司屋さんでなくとも、私たちの生活は何かを「はかる」シーンであふれています。それは重さかもしれませんし、長さかもしれません。そこで私たちは「はかり」を使います。職人技のような特殊なケースもあり得ますが、「はかり」はモノを正しく「はかる」ためになくてはならないものです。
今回のはかる学入門は、「はかり」について。
「はかる」ものをどう「はかる」?
前述したとおり、「はかる」ためには「はかり」が必要です。しかし、ちょっとややこしいですが、「はかり」を「はかる」ためにもその基準となる「はかり」が必要です。「はかり」を「はかる」ための基準、つまり「はかり」の大元となった考え方のひとつに、「単位のキホン[2]」でとりあげた“メートル法”があります。
メートル法の大もとは長い間、フランス生まれの“メートル原器”がつとめていました。白金90%、イリジウム10%の合金でできたメートル原器は、パリ郊外のルイ14世の宮殿の地下金庫に厳重に保管されていました。しかし、金庫や警備で厳重に保管していても、金属でできたメートル原器は温度などの条件で伸び縮みします。そのためより正確な定義ができた現在、メートル原器はお役御免となっています。
さて、現在のメートルの定義は、光の速度を基準にしたもので、1メートルは「1秒の1/299,792,458の時間に光が真空中を伝わる行程の長さ」とされています。聞いてなかなかイメージできませんが、“どんな条件下でも変化しない、普遍的なもの”とされる光の速さを基準にしたことで、「1メートルは1メートル」と言い切れる、厳密な定義がされたということです。
一方、最後の原器として120年以上にわたり“重さ”(正しくは質量)の基準であった国際キログラム原器。メートル原器と同じく、白金・イリジウム製で、直径約39ミリ、高さ39ミリの円柱形です。本来質量は一定のはずですが、洗浄により1億分の6程度軽くなってしまったことや、科学の進歩により高精度な計測が必要になってきた背景もあり、その定義の危うさが指摘されました。そして2011年、国際度量衡総会にて廃止が決定。今後はメートルと同じように、10年ほどかけて新定義を策定し、移行するということです。私たちが日常的に使っている重さの単位について、基準が今(2013年7月現在)、空白だというのは不思議な事実ですよね。
はかりの決まり
たとえば家でケーキを焼く時に、レシピ通りのはずなのにうまくいかないことがあります。もしかするとその原因は、お菓子の本で使っている「はかり」と、あなたの家の「はかり」に誤差があるせいかも。自家製ケーキであれば、コツをつかめば済む話かもしれませんが、それが商売や、公の取引や証明に関わってくると話は別です。「はかり」のほんの小さなばらつきが、大きな混乱を招くこともあるからです。
取引や証明のための計量には、検定に合格して誤差が小さいことを示す「検定証印」が表示された計量器を用いなければならないことが、「計量法」という法律で定められています。また品質管理の方法が基準に適合しているメーカーの計量器には「基準適合証印」が表示されていて、これも取引や証明に用いることができます。
これらの検定をおこなう機関や基準検定証印のある計量器を製造するメーカーは、経済産業省が指定することになっており、それぞれ「指定検定機関」「指定製造事業者」と呼ばれています。「検定制度」は、重さをはかる「はかり」だけでなく、タクシーのメーターや、自動車の車検のために整備工場で使う計量器なども対象になっています。たとえば大気汚染防止のための工業排ガス監視用「ガス濃度計」なども対象になっています。
いかがでしたか? 体重計や温度計、ちょっと見回せば身の回りにたくさんある「はかり」の成り立ちと決まり。「はかり」により決められることの多さや重要さを考えると、 “正しさ”の追及にも納得がいきますね。
後編では日本の「はかり」に目を向けてみたいと思います。
Photo by Thinkstock/Getty Images
関連リンク