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京都水族館をはかる[4]
  京都水族館にとって「はかる」とは?

3回にわたりお送りしてきました「京都水族館をはかる」。日本初の人工海水100%という特徴を持つ京都水族館では、塩分濃度を「はかる」技術が活躍しています。

最終回となる今回は、京都水族館で実際に「はかる」役割を担われている二見奉久さんにお話をうかがいました。日々の業務から、京都水族館にとっての「はかる」意味まで、連日にぎわいを見せる水族館を裏で支える方の言葉には、海の生きものやお客さまへの熱い想いが込められていました。


人工海水100%だから実現できる、魚たちにもお客さまにも優しい“透明度”

人工海水100%だから実現できる、魚たちにもお客さまにも優しい“透明度”

京都水族館の特徴といえば「人工海水」。まずは人工海水を使うメリットと、水質維持のポイントをうかがいました。

はかる場: 率直にうかがいます。人工海水100%で運用されているメリットとは?

京都水族館 二見奉久さん(以下、二見さん): まずは水質がクリアということ。天然海水では取水海域に生息する生物(プランクトンなど)が混じっています。一度使った人工海水の再利用も行っていて、海水をろ過する技術によってフンや食事による汚れを取り除いています。人工海水はもともとクリアな水ということもあり、節水や環境への配慮にも繋がっています。

海に近いところであれば海水を運搬して水族館に取り込んで、ということができるのですが、海から遠い京都水族館の場合は輸送に大きなエネルギーがかかってしまいます。輸送費を含め、それらを軽減できるというメリットもありますね。

はかる場: クリアな水質は大きな特徴ですが、維持するにあたって重要なポイントはありますか?

二見さん: 透明度は大切ですね。お客さまがご覧になる時、水槽はきれいな状態で見ていただきたいと当然思っています。私たちがはかる塩分濃度自体は見た目に影響を与えませんが、塩分濃度が高かったり低かったり、適切な濃度に保たれていないと魚たちが弱ってしまいます。元気な状態の魚たちを見ていただきたいので、その意味では見た目に関係していると言えるかもしれません。大切なのは、魚や海獣にとって一番良い生活環境にするということです。


海水由来の塩による、“限りなく海水に近い”人工海水の作り方

電気伝導率のはかり方

海水由来の塩による、“限りなく海水に近い”人工海水の作り方

人工海水が“海水のもと”を利用して作られることは、はかる場でも紹介してきました。また、魚と海獣では異なる環境で生活するため、異なる人工海水を用意することも。詳しくうかがうと、その作り方からして違いがありました。

はかる場: みなさんのお仕事は人工海水を作るところから始まります。

二見さん: はい。できるだけ天然海水に近いものを作るということで、一度海の水を蒸発させた海水由来の塩を水に戻しています。つまり成分としては海と一緒なんです。

はかる場: “海水のもと”が海水だけで作られているということは、つまり薄めれば、ほぼ天然海水ということですか?

二見さん: 実は、魚と海獣では人工海水の作り方から異なります。海獣には先ほどの天然海水の塩を利用した人工海水を使用していますが、水中の酸素を呼吸している魚や無脊椎動物に関してはミネラル分など、魚や無脊椎動物が生きていくのに必要な成分も入れて調製しています。

はかる場: そうやって作られた人工海水は、どのように水槽へ送られるのでしょう?

二見さん: バックヤードの3つの槽で段階的に希釈し、水槽へ届けます。海水を蒸発させて作った塩を、まずは溶解槽で溶かします。この時点で電気伝導率計は10.5%という塩分濃度を示し、この状態を3倍濃度と呼びます。溶解槽の海水は調整槽に送られ、ここで通常の飼育水として使用できる濃度、3.5%程度の塩分濃度にします。これを貯留槽に移し、最終的に水槽に送るというシステムになっています。


電気伝導率計から水の入れ替えまで……水質を維持する日々の「はかる」

魚や海獣たちの生活環境を維持するためには、電気伝導率計で塩分濃度を「はかる」ことをはじめ、日々繰り返される業務が欠かせません。バックヤードで水質を維持する日常とは。

はかる場: 電気伝導率計による塩分濃度のチェックは、どのくらいの頻度で行われているのでしょうか?

二見さん: 1日に1回、各槽の塩分濃度を必ずはかっています。魚類、海獣それぞれに溶解槽・調整槽・貯留槽と3つの槽がありますので、毎日6つの槽の塩分濃度をはかっています。それぞれの槽にセンサーを浸してはかるのですが、魚類系のセンサーについては1~2週間に一度、槽からセンサーを出して先端を清掃しています。魚類の槽はミネラルなどを添加していることもあり、どうしても電極のところに膜のようなものがついてしまうんです。

はかる場: 水質の維持という点では水槽の水の入れ替えも必要になってくると思います。

二見さん: 大水槽の例で説明すると、1日で水槽の全量の数%を「かけ流し」という形で入れ替えています。24時間、常時決まった流量をかけ流し、ろ過器を通してきれいにして再利用し、一部は排水として処理しています。屋外で展示している海獣の水槽は、夏場どうしても藻が発生しやすくなるため、2~3週間に一度、すべて入れ替えて清掃をします。

はかる場: そんなに少ない水の入れ替えでも水質が保たれているのですか。

二見さん: 海に近く、天然海水を使用する水族館だったら、汚れたら入れ替えるということがすぐにできます。海にいくらでも水がありますから。それに対して人工海水100%の京都水族館では、コストを考えないといけません。飼育スタッフが「ちょっと掃除したいので水、捨ててもいいですか?」と言われても、ちょっと待ってくださいと。無制限では使えないんです。

はかる場: なるほど、ろ過器や電気伝導率計などの機器を使って人工海水を維持する工夫が、水やエネルギーの節約にもつながっていると言えますね。


水族館の主役は魚や海獣だけではない? 影から支える水の管理

多くのお客さまでにぎわう京都水族館。主役は魚や海獣、海の生きものたちですが、見方を変えれば水そのものがなければ成り立ちません。水族館で水を扱う人々は、いわば縁の下の力持ちなのです。

はかる場: 水族館で水を管理するお仕事は、魚や海獣の命に直結することだと思います。やりがいも大きい反面、たいへんなことも多いのでは。

二見さん: オープン前、お客さまにお見せする前の時期は、水質を安定させるために苦労しましたね。飼育スタッフの希望する水質にあわせるには試行錯誤が必要でした。今は運転データがたまってきたことで、水質も安定しました。人工海水自体は溶かす成分以外、まじり気のないものですが、水槽やろ過器内には硝化細菌などのさまざまな微生物が住んでいます。水槽内の生物サイクルが完成されてきたことで、管理しやすくなっている面もありますね。水槽の管理は、餌の量など魚たちの日々の営みと関わってきますので、飼育スタッフのお仕事です。

はかる場: 二見さんたちのお仕事は、きれいな水を作り、水槽に届けるということなんですね。

二見さん: そうですね、水槽に供給する水を作るというのが主な仕事です。言ってみれば水道局みたいなイメージですね。水族館でお客さまが何を見ているのかというと、もちろん魚や海獣を見ていらっしゃるのですが、“水の塊”を見ているという側面もあるんですよね。例えばHORIBAさんの取材の時の写真を見ていただくと、感じられると思います。

はかる場: たしかに、これだけの水を見るってことはなかなかないですよね。屋外の海獣ゾーンの水も陽の光が入るととてもクリアで、ペンギンたちもなんてきれいなところで泳いでいるんだと、あらためて思いました。そういう意味では、人工海水を作っている裏方さんが、陰の立役者なのかなと思います。

二見さん: 水槽をボーっと見ている時って、生きものを見てくださっているというのがもちろんありますが、特に大水槽を座って眺めているお客さまは、約500トンの水を見てくださっているというのもあると思いますよ。


京都水族館にとって「はかる」ことの意味とは

京都水族館の多くの場所で利用されている人工海水は、塩分濃度を「はかる」ことで水の状態が「見える」ようになり、魚や海獣たちの生活を支えています。海水以外にもさまざまなシーンで「はかる」を実践している水族館。「はかる」ことの意味とは? 最後に伺いました。

はかる場: みなさんのお仕事においてズバリ「はかる」とは?

二見さん: 私たち設備管理の仕事は、データがないと何もできません。データを見て初めて、うまくいかない原因がわかったり、対策が練られたりします。我々にしたら「はかる」ということは、仕事の一番の根底ですよね。今携わっている部分は、水を作るということだけでなく、一回使った水をろ過してもう一度使うということであったり、水族館の心臓部の仕事だと思っています。

それ以外にも「はかる」というといろいろな数値があると思うんですが、水族館においてすべてに共通するのは“水族館で飼育しているすべての生きものの健康維持、管理をするにあたって重要な指標”となるものだと捉えています。水質も体長・体重測定も、すべての「はかる」はどこに行き着くかというと、生きものの健康管理につながります。水質が悪化すれば健康に害をなしますし、一日にどのくらい食べているのか、体長・体重の変化、すべての「はかる」ことが生きものの健康につながっていると言えますね。

はかる場: 生きものの健康管理をすることは、お客さまにとっても意味がありますよね。

二見さん: 例えばペンギンがきれいな水の中を泳ぎまわっているというだけでも「楽しく過ごしているんだな」というように感じていただけます。余計なものがない人工海水ということで、実際に見たり、写真を撮ったりしていただければおわかりになると思いますが、青がとても映えます。お客さまにもきれいな水の青さに気づいていただき、ひいては、きれいな水だからこそ魚たちが元気に生きられて、だから海に行った時でも「ゴミはちゃんと持ち帰ろう」とか、「きれいな水を保っていかなければいけないよね」ということで環境にも目を向けていただければな、と思います。


4回にわたってお送りしてきました「京都水族館をはかる」、いかがでしたか。今回は京都水族館の特徴であり、心臓部でもある人工海水にまつわる「はかる」にフォーカスしました。海の生きものたちが生きる環境を再現することには多くの苦労をともないますが、魚や海獣たちは「かつてない海水で、水を得た魚たち」として私たちに元気な姿を見せてくれています。京都水族館を訪れた際はぜひとも、魚や海獣たちとともに、水にも注目してみてくださいね。

人工海水を「はかる」ことを追うことで、電気伝導率を利用した水のはかり方や、魚や海獣たちの生活の違い、華やかな展示をバックヤードで支える人たちの想い……多くの物事が見えてきました。はかる場ではこれからも、「はかる」ことを通じて「見える」ようになる、世の中のさまざまな「はかる」を紹介していきます。

 

京都水族館をはかる

>>京都水族館をはかる[1] 国内初! 人工海水100%の水族館
>>京都水族館をはかる[2] 海水の塩分濃度を「はかる」
>>京都水族館をはかる[3] 電気伝導率計で水を「はかる」


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