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「JASIS」と「はかる」

JASISとは

JASIS(ジャシス=Japan Analytical & Scientific Instruments Showの頭文字、分析展/科学機器展)は、アジア最大の分析装置の展示会。キャッチフレーズの“未来発見。Discover the Future.”に込められた通り、イノベーションを生み出し、将来のビジネス発展につながる発見がある場として、分析に携わる企業や研究者から多くの注目を集めるイベントです。

年に一度の開催期間には、日本発、世界をリードする「はかる」技術が集結します。2013年は9月4日~6日の三日間、千葉・幕張メッセにて開催されました。「はかる場」編集部ではこの機会を逃す手はないと、潜入取材を敢行。「はかる場」を運営するHORIBAのブースにお邪魔して、最先端の技術、また「はかる」ことにとって「JASIS」が果たす意味を聞いてきました。


HORIBAにとってJASISとは

電気伝導率のはかり方

HORIBAにとってJASISとは

今回お話を聞いたのは、HORIBAブースの実務責任者・三添英朗さん。まずはJASISの意義など、基本的な内容から。

はかる場: HORIBAや分析機器業界にとってJASISはどのような位置づけをされているのでしょうか?

三添さん: この展示会をめがけて新製品をリリースしたり、このためにいろんな媒体・カタログをご用意するなどしております。ここにさえお越しいただければ、我々の最新の製品と情報をお届けできるように。そういうつもりでやっております。かつ今年は創立60周年ですので、HORIBAとしての今までの歩みをお客さまにお伝えし、感謝を申し上げるという主旨で運営させていただいています。

はかる場: JASISは主に分析機器メーカーと、それらを利用する法人や研究者が集う場ですよね。このような「はかる」技術を提供する側と利用する側がダイレクトに触れる場で、ユーザーのみなさまからはどのようなことを求められていると感じましたか?

三添さん: やはり世界ナンバーワンの分析装置で、一流の研究や開発をしたいということだと感じます。一流の仕事をするためには、一流の分析装置がいる。スペックも使い勝手も、いろんなファクターがからみ合ってのものです。製品を作る上でのキーワードは、お客さまのお声をお聞きするということ。そこはかなり綿密にやっておりますので、JASISは製品のご紹介のみならず、お客さまのニーズをお聞きして開発につなげるという、そういう役目もありますね。


製品を通じて知る、日常の「はかる」

製品を通じて知る、日常の「はかる」

創立60周年のHORIBAブースでは、過去最多となる6つの新製品を中心に最大規模の展開を実施。三添さんのお話にもあった通り、そのどれもがユーザーの方々との対話を繰り返し、進化を遂げてきたものばかりです。

たとえば「はかる場」でも紹介した分析技術の基本、「pHをはかる」pHメータの「LAQUA(ラクア)シリーズ」。pHメータはHORIBAでも主力製品にあたり、古くから技術開発が進められてきました。今回出展された商品では、タッチパネル式のモニターで直感的な操作が可能になっていたり、カラフルな色展開が目を引くLAQUAtwin(ラクアツイン)ではお手軽に「はかる」ことを体験できたりと、“今”を感じさせるラインナップが並びます。「水をはかる」でもご紹介しましたが、水をはかることは水分中の不純物の濃度をはかること。そのため水道水のように不純物の少ない水を測定することは困難を極めます。それら「上水」と呼ばれる水専用のセンサーも発表され、来場者から高い関心を集めていました。

そのほかにもブースを回りながら、いくつかの製品について「はかる」エピソードを聞きました。

 

●粒子計測(レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置 Partica LA-960)

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はかる場: 日常生活では、まず粒子という言葉を使うことがないですね。

三添さん: でも私たちが飲むコーヒーひとつ取っても、この機械ではかっているんですよ。コーヒーの味に粒子がかかわっているそうなんです。他にも、たとえばチョコレートのおいしさのひとつは舌触りだと思いますが、それは粒の大きさなんですね。ザラっとしたり、なめらかだったり。おもしろい話がありましてね、ペットボトルのお茶がありますよね。同じ銘柄でも、ペットボトルに入っているものと缶に入っているものと展開されていますが、どっちがおいしいと思いますか?

はかる場: なんとなく缶じゃないかと思います。理由はさっぱりわからないですけど。密閉感ですか。

三添さん: 私が聞いた範囲で、すべての食品メーカーに共通ではないかもしれませんが、おいしいのは缶なんですって。ペットボトルにお茶が入っていた場合、お客さまは透明なペットボトルから中の液体が見えますよね。そこに何か浮いているもの、固形物があると、クレームになるそうです。でもお茶のおいしさというのは、まさに浮いているものにあるそうなんです。あの濁りみたいなものが。おいしさと見た目、ジレンマがある中でお客さまのニーズに応えるために、粒子を減らすことに苦心されていると。その場でもまさに、粒子径分布測定装置が使われています。

 

●元素分析(蛍光X線分析装置 MESA-50、他)

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三添さん: 個人的に面白いなと思うのは、X線を使った装置です。指輪をはめてらっしゃいますけど、それはプラチナですか?

はかる場: そうだと思います。

三添さん: これはプラチナをはかることができる装置なんですが、失礼な話その指輪は偽物かもしれませんよね?(笑) この機械では指定した元素の濃度が何%なのかがわかります。指定の位置に指輪を置いてはかれば、本物か偽物かがすぐわかるんですよ。宝石店をはじめ、博物館や美術館にも導入されています。持ち運びも可能なハンディタイプを使えば、たとえば金屏風に向けてはかることで金が何%使われているのかも調べられます。

はかる場: へえ! 元素分析、X線分析という言葉の響きだけでは身構えてしまいますが、このエピソードを伺ってかなり身近に感じられました。


「はかる」にとって「JASIS」が意味すること

「はかる」にとって「JASIS」が意味すること

ブースを回って感じたのは、それぞれの製品、はかる技術が時代のニーズにフィットしていることでした。しかし、確かな技術や実験の繰り返しが求められる商品開発において、数年後、数十年後の世界を予見してその時に必要とされるモノをつくるなんて夢みたいな話、あるわけがありません。三添さんは「下積み時代があるんです。いかにたくさん、高い技術を持つか。儲からなくても続けること」が大事だと、会社の理念を語ります。最後にこの「JASIS」が「はかる」ことにどのような意味を成しているのか、聞いてみました。

はかる場: 今回のJASIS、HORIBAでは「未来につづく分析技術」をテーマに掲げてらっしゃいました。

三添さん: 分析装置というのは、装置自体にはそんなに価値がないんですね。というのも、モノをつくるわけでもないですし、身近なメリット・利益にはならないんです。これらの装置が最終的に社会の利益になるためには、メーカーの製品開発や、大学の研究だったり、いくつかのステップを経る必要がある。あくまでもその1つのプロセスでしかないんです。でもそのプロセスがなければ、食品管理もできませんし、品質管理もできません。黒子のような役割ですが、不可欠な存在です。

はかる場: JASISは技術を生み出す人と使う人が出会う、大切な場ですよね。

三添さん: ええ、ですから我々が技術を提供して、装置を使っていただくことで、10年後に新しい製品ができたと。それがノーベル賞をとるための1つのツールになるかもしれません。ある意味我々の分析装置は、気長に結果を待つという側面もございます(笑)。環境分析の装置なんかは、今環境分析をしたとしても環境がよくなるのはだいぶ先の話になりますよね。「未来につながる技術」というテーマにはそういう意味を込めてあるんです。


JASISの会場では、分析技術に関わる人以外、私たち一般人の姿を見かけることはほとんどありません。でもそれも納得です。「はかる」技術は、体温計のようにすぐに数値を教えてくれて、すぐに役立つモノもたくさんありますが、それと同じくらい“すぐには役に立たないけど大切な技術”でもあります。きっとそれは気の遠くなるような時間や試行錯誤を繰り返されて生み出され、私たちの生活に気づかないうちに溶け込んでいるはずです。

「はかる場」編集部はJASISの取材を通じ、「はかる」技術の胎動をしっかりと感じてきました。これからも技術や製品を通じ、私たちの暮らしを支える「はかる」を紹介していきます。


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