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TOP○○をはかるタイヤをはかる > タイヤをはかる[4] 「タイヤをはかる」とレースの裏側が「見えてくる」

タイヤをはかる[4]
  「タイヤをはかる」とレースの裏側が「見えてくる」

「タイヤをはかる」現場を実際にレポートすべく参加した、全日本学生フォーミュラ大会(取材の模様はコチラ)。取材に協力していただいた東京理科大のレーシングチームに所属する金子さんと、同チームのチームキャプテンを務める安藤さんのお話が聞けました。

実際にタイヤをはかってみた感想と、タイヤをはかることがレースで果たす役割とは? 生の声からたくさんの可能性が見えてきました。


はかる場: タイヤの温度をはかるというミッション、いかがでしたか?

金子さん: タイヤの温度をはかることは、これまでもあったんです。でも、そのときは接触式の温度計で真ん中を1か所だけはかるという感じだったので、今回、外側・中央・内側の3セクションに分けてはかるというのはとても参考になりました。

はかる場: タイヤを3か所に分けてはかって、はじめてわかることがありましたか?

金子さん: レーシングカーは、コーナーを曲がるときにタイヤがしっかりグリップするようホイールにキャンバー(※)を付けるんですが、その倒角が適切かどうかがわかると思います。タイヤがちょうどいい角度になっていれば、内側も外側も同じぐらいの温度になるはずなんです。実際、いろんなチームの車をはかってみると、内側と外側で温度に差がありました。キャンバーの倒角がきつすぎると内側は路面との摩擦で熱くなりますが、外側はちゃんと接地していないので、温度が上がらないんじゃないかと。つまり、タイヤを全部使い切れていない、ということが見えてきました。

はかる場: 内側しか使っていなければ、タイヤの性能を最大限に発揮することはできませんよね。

金子さん: タイヤの温度にはドライバーの特性も大きく関係しているなと思います。コーナーリングのときにドライバーによってクセというか、テクニックに違いがあるんです。後輪を滑らせるか、反対にしっかりグリップして曲がっていくか。滑らせるほど熱くなるので、ドライバーの走り方がタイヤの温度からもフィードバックできるのは大きいですね。

はかる場: 今回はタイヤの温度に注目しましたが、ほかにもレースをする上で温度をはかると役に立ちそうなことはありますか?

金子さん: ブレーキの温度をはかってみたいです。ブレーキディスクが高温になりすぎると、熱でゆがみが出てくるんです。温度を見ればそれを管理できます。あと、うちは結構、車体にアルミを使うんですが、アルミは高温になっても赤くなったりしないので、熱いのがわからないんですよね。間違って触るとやけどします。

はかる場: 安全にもつながるわけですね。

金子さん: そうです。過酷なレースで実際、「うわぁー車が燃えてる」なんてこともあるわけです。走行の合間にあちこちはかって、異常に高温になっていないか、すぐにチェックできるのはいいことだと思いです。あと、断熱もはかってみたいですね。燃料タンクとか。以前に燃料の温度が上がりすぎてトラブルになったことがあって、断熱材を巻いているんですよ。断熱がうまくいっているかなとか。

はかる場: 温度一つとっても、はかるといろいろわかりそうですね。

金子さん: トラブルシューティングのときに、いろいろな角度から見られるようになります。以前、エンジンの高回転が出なくなったとき、電気制御系ばかりに注目していたんですが、実は排気が異常に熱かったということがありました。問題があったときにも、目を向けていなかったところに気づけるので、発見のツールになりそうでおもしろいです。

 

※自動車を正面から見た時、タイヤが内外に傾く角度のこと


放射温度計を使い、実際にタイヤをはかることを体験したことで、金子さんからは「レーシングカーをはかる」アイデアが次々に生まれました。まさに「はかる」と「わかる」を体現していただいた瞬間です。

同じく東京理科大学チームから、チームキャプテンの安藤さんにもお話を聞きました。開口一番「見えないところを見えるようにというのは、僕たちのマシンづくりの根幹にあることなので、すごくいいなと思って共感します」と、安藤さん。彼らの活動における「はかる」の役割を語っていただきました。


東京理科大学チームのレーシングカー。ドライバーの頭上に吸気フィルタ、向かって右側に車載カメラが取り付けられている。

はかる場: ものづくりが中心にある活動を通じて、「はかる」ということは、どのような役割を担っていると思いますか?

安藤さん: レーシングカーでは、目で見てわからないことが多いので、定量的なデータをマシンとドライバーにフィードバックして、それからセッティングを変えたり部品をアップグレードしたりします。見えないデータをはかるのは、マシンのステップアップの基本だと思います。「プラクティスエリアを走ってみて、こういうデータが出ているからいいセッティングができている、このまま行こう」という判断ができたりします。

はかる場: 金子さんにもうかがいましたが、タイヤ以外で温度をはかる場面もあると思います。

安藤さん: 僕たちのマシンは上方吸気というレイアウトを採用していますが、その目的の一つとして吸気温度を下げたいということがあります。エンジンよりも上の方に配置して、路面の輻射熱の影響などを避けています。ただ、それによってマシンの重心が高くなってしまうという新たな課題も生まれます。じゃあどっちを取るかとなったときに、走行中に上と下のあたりではかることができれば、本当に吸気温度が下げられているんだなということで、車体デザインへのフィードバックができます。吸気温度を下げることでどれぐらいパワーが上がると言えて初めて、重心を上げてでも上方吸気を採用しようと判断ができるんです。

はかる場: 温度以外はどうでしょう。たとえば車載カメラを付けていますよね。

安藤さん: ドライバーが見えていないのって、実は足下だったりするんですよ。たとえば「なんでこういう挙動になるんだろう」って考えたときに、録画で足下をよく見てみたらアクセルペダルと一緒にブレーキペダルも踏んでしまっていた、ということが見えたりするんですね。それで踏み間違え防止の板を付けようということになったり。コースだけじゃなくて、コックピットを撮っているんです。「はかる」ことをはじめ、「見えないものを、見えるように」することはレースに欠かせない要素です。


強烈なエンジン音とともに目の前を颯爽と駆け抜ける……。私たちが思い浮かべる華やかなレースシーンの裏側には、弛まぬ努力をささげる人たちがいます。レースを通じてものづくりを取り組んでいる学生さんたちが、「はかる」ことを通してその活動をさらに進化させてくれるのではないかとワクワクしました。

「タイヤをはかる」こと。それは日常生活からレースまで、いろいろなところで性能や安全に大きな役割を果たしています。自動車や自転車に乗るときには、ときどき「タイヤをはかる」技術のことを思いだしてみてください。

 

タイヤをはかる

>>タイヤをはかる[1] タイヤと温度のあつ~い関係
>>タイヤをはかる[2] 触れずに温度をはかる“放射温度計”の仕組み
>>タイヤをはかる[3] 全日本学生フォーミュラ大会で「タイヤをはかる」(前編)


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