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動物の健康をはかる[2]
  「血液をはかる」意味と仕組み

「目は口ほどに物を言う」と言いますが、口以上に健康状態を知らせてくれるのが血液です。血液の状態を詳しく調べることで、体の中で何が起こっているかを知ることができるので、意識を失っている患者の診察には欠かすことができません。自分で症状が説明できない赤ちゃんの診察時も、血液検査が大きな頼りとなります。

もちろん、共通の言語を持たない動物たちとのコミュニケーションにおいても同様です。今回のテーマは「血液をはかる」こと。血液の何をはかり、何を知ることができるのか。身近でありながら意外と知らないその仕組みを明らかにします。


病気と密接な関係を持つ、白血球の働きが「血液をはかる」カギ

病気と密接な関係を持つ、白血球の働きが「血液をはかる」カギ血液の重要な要素が、おなじみの赤血球、白血球、血小板など、「血球」と総称されるものです。もっとも数が多い赤血球の役割は、おもに酸素運搬です。血小板には血管の傷を修復するはたらきがあり、量が少ないと出血が止まらなくなります。白血球は生体の防衛を担当します。これら3つの「血球」の比率は、健康状態で最も少ない白血球を1とすると、赤血球は1000、血小板は50とされます。

血球の中でも特に「白血球」は、病気と密接な関係にあります。体内に細菌などの病原体が侵入して炎症を起こした時に白血球の数が増加する仕組みから、血液検査では血液1マイクロリットル(※)あたりの白血球の数と種類を調べて、病気を診断する手がかりにしているのです。

人間の血液中には通常、1マイクロリットルにおよそ4,000から9,000の白血球が存在し、大きく5種類に分けられます。このうち「リンパ球」(LYM)は白血球のおよそ3分の1を占め、免疫反応では相手を敵と認識したり、それに対する抗体をつくったりする「知的中枢」を担当しています。「リンパ」の語源は「澄んだ」という意味で、その細胞質の透明性が高いことから名づけられました。

リンパ球が「知的中枢」であるとすれば、「実戦部隊」は「顆粒球」とよばれるグループです。古くから白血球の検査には、酸性・中性・アルカリ性の三種混合染料が使われていますが、顆粒球グループの「好酸球」「好中球」「好塩基球」はそれぞれどの染料に染まりやすいかという性質によって名づけられました。好中球(NEU)は白血球の約6割に及び、白血球中もっとも数が多く、外敵との戦いで一番活躍するエース的存在です。感染の規模や重症度を推定するには、好中球の数を調べます。

白血球の約5%を占める好酸球(EOS)は、「好酸性顆粒」というアレルギーを抑える物資を積めた袋をもっています。アレルゲン(アレルギーの原因物質)の近くで袋を破り、中の物質をまき散らして症状を緩和します。好酸球の増加は、じんましんやアレルギー性疾患などの指標となります。好塩基球(BAS)は、白血球の1%前後ともっとも少数の細胞で、ヒスタミンやヘパリンが含まれており、アレルギー症状に関係していると考えられています。

リンパ球、3つの顆粒球と並んで分類される単球(MON)は、白血球の約5%。自分で敵を認識し自由に動いて症状を鎮めます。体内の老廃物を処理するのも単球の役目です。白血球はこのような役割分担をしているため、病気にかかった時にその全体の数やそれぞれの役割が変わります。この5つを分類して計数することで、素早く病気を見つけることができるわけです。

これら血球のほかにも血液検査で発見され、病気の診断に役立つ指標があります。「C-反応性タンパク」(CRP)は、組織が損傷したときや微生物が体内に進入したときに血中にあらわれるタンパクの1つです。肺炎患者の血清中で発見され、肺炎球菌の膜成分であるC分画と反応することからこう呼ばれていますが、現在ではいろいろな病気で重症度を反映して増減することがわかっているため、治療方法の決定や薬剤の選定に役立っています。

※1ミリリットルの1000分の1に相当


血球の仕組みを利用して「血球の数」をはかる

自動血球数計数CRP測定装置

実際に血球を「はかる」ためにはどのような作業が行われているのでしょうか? 医療をテーマとしたドラマや映画での「白血球が増加している」、「血小板が少ないから輸血を」といったセリフに聞き覚えがある方もいらっしゃるはず。このようなシーンで使われているのが「自動血球計数装置」です。

日本では1975年頃まで、ガラス計算板と呼ばれるものを用いて顕微鏡で一つ一つ(!)数えていましたが、この方法はとても手間がかかる反面、必ずしも正確ではありませんでした。現在では高度医療機器の開発に伴い、各種病院検査でも自動化が進められて、血球数の計算についても自動血球計数装置が用いられることが多くなっています。

血球も細胞の一種で「電気を通さない」、つまり電流が流れにくい性質を持っています。この性質を利用し、血球の数をはかります。まずは電流の流れやすい食塩水を容器に入れ、一定の電流を流しておきます。容器にはごく小さな穴が開いていて、穴を通じ、チューブで中の食塩水を一定量吸引できるようになっています。この容器に血液を、計りやすくするために一定の割合で薄めて入れます。チューブから容器の中の食塩水と薄めた血液を吸引すると、容器の小さな穴を血球が1つずつ通ります。この時、血球は電気を通さないので電気の抵抗が生まれます。この抵抗を電気信号として数えることで血球の数が分かる仕組みになっているのです。

また、血球は種類によってそれぞれ特徴ある形をしています。たとえば顕微鏡で見ると、白血球は白く大きな球形、赤血球は丸く赤いクッションのような形、血小板は小さな破片のような形をしています。自動血球計数装置ではそれらの血球が穴を通る時、体積による電気信号の特徴から血球の種類も見分けています。血球はこのように、種類により大きさも形も違っているのですが、生産過程をさかのぼるとすべては骨髄中に存在する「幹細胞」と呼ばれる1種類の細胞に行き着きます。人体のメカニズムのすごさを感じずにはいられないですね。


「血液をはかる」意味と仕組みをご紹介しました。シンプルですが得られる情報量は多く、その重要さがわかります。注射針でチクっと刺されるのは大人になっても嫌なものですが、意味を知れば、我慢できますよね。次回は「血液をはかる」仕組みをさらに、動物のケースで掘り下げていきます。

 

(監修:京都府立医大 感染制御・検査医学講師 稲葉亨)

 

動物の健康をはかる

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Photo by Thinkstock/Getty Images

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