main

TOP○○をはかる動物の健康をはかる > 動物の健康をはかる[4] 動物医療の最前線で「動物の健康をはかる」意味を知る

動物の健康をはかる[4]
  動物医療の最前線で「動物の健康をはかる」意味を知る

「動物の健康をはかる」と題してお届けしてきた連載もいよいよ最終回。最終回にして、「動物の健康をはかる」最前線へお邪魔しました。これまで血液検査を中心に「動物の健康をはかる」仕組みや意味をお届けしてきましたが、獣医師さんへのインタビューで動物医療の現場の声をうかがいます。日々、動物とその飼い主さんたちと触れ合う獣医師さんのお話しからは、ロジックだけではない、「動物の健康をはかる」ことの意義が見えてきました。


愛しているなら知ったつもりで済まさない、「人と動物の違い」

訪れたのは京都市南区にある「めぐむ動物病院」。犬や猫、うさぎをメインに診察しているそうです。獣医師の中村仁先生にお話しをうかがいました。

はかる場:動物の診察について、一般的にどのような流れで行うのか教えてください。

中村先生:まずは飼い主さんに「何が気になるのか、どのような症状なのか」という来院理由を詳しくお尋ねします。その上で通常、触診や聴診などひと通りの身体検査を確実に行い、問題点をできるだけ明確にします。診断するためには次に何が必要かを相談したうえで各種検査や治療に進みます。はじめの診察には結構時間を使います。30分、場合によっては1時間くらいかかる場合もありますね。

はかる場:やはり、言葉が通じない動物を診療するうえで、飼い主さんとのコミュニケーションが重要になりますか?

中村先生:そうですね。飼い主さんが気にしていた症状とは一見関係なさそうなこと、たとえば普段の食事内容やトイレの回数であるとか、いろんなお話を伺います。異常が出る前の情報も非常に重要です。よく観察されている方がほとんどなので多くの情報を収集することができますが、普段あまり気にしていないこともお聞きしますのでお答えいただくのに苦労される場合もあります。

はかる場:動物が喋れないのと同じように、飼い主さんも自分の症状ではないので、言葉を通して理解するむずかしさがありますよね。

中村先生:確かに理解するのはむずかしいですが、飼い主さんでなければわからない情報もたくさんありますので、いろいろと教えていただく必要があります。また、病気の説明などは自分や家族が同じような病気をされた経験があるなど、イメージしやすい場合には比較的理解していただけます。治療の方針も似ていたりします。でも、人と同じ病名がついていても、治療の方針が全く違うということもあります。たとえば猫の糖尿病。人の場合は健康診断などで高血糖が見つかると病院に行き、診断後は食事療法や内服薬での管理から……という具合ですよね。しかし猫の場合、糖尿病と診断された時点からインスリン注射を1日2回始めていただくことが多いのです。動物はなかなか症状がわかりにくい。症状がはっきりした時にはかなり進行しているので治療初期から大変な治療を開始することも多く、獣医師はきちんと説明し、理解していただくことが重要になります。

はかる場:ちょうどその辺りの話を前回までしていまして、動物の病気の進みが人間よりも速いということは、理解しておかなければいけない部分ですよね。では、動物種、犬で言えば犬種など、個体差についても意識されることが多いですか?

中村先生:種類による差を考慮するのは基本的なこととして、うちで特に気を遣うのはそれぞれの動物の性格なんですよね。すごく怖がりな子や、家族以外に触られることにものすごく慣れていない子もいます。必要な検査や治療であっても、無理をすると精神的に参ってしまってかえって状態を悪くしてしまうこともあるんです。場合によっては命にかかわるような重い病気で、しっかりと入院して検査や治療をすれば延命できるかもしれないけれど、逆に精神的に追い詰められて命を縮めてしまう可能性がある。そういう子には、生きる期間が多少短くなるとしても、ご家族の元で過ごせる期間が長いほうがいいんじゃないかという選択で治療の方針が決まることもあるんです。

繰り返しになりますが、動物たちは治療や説明を理解できないので、動物が極端に嫌がることはできない。暴れて危険な場合には麻酔してから検査や治療をする場合もありますが、それなりの負担も伴います。どれだけ受け入れてくれるかなというのを、しっかり見極めながら対応するようにしています。


いざという時のための「健康診断」の重要性

健康をはかる以前に考えられなければいけない人と動物の違い。飼い主になる私たち人間は物言わぬ動物たちに代わって、時には命に関わる決断を迫られることもあるのです。可愛い動物たちのため、私たちにできることとは。

はかる場:動物の異常に気付くためには日ごろからしっかり観察することが欠かせないと思います。人でいうところの健康診断のように、正常値を知ることも有効ですよね?

中村先生:犬の場合は少なくても年に一回、フィラリアの検査と予防で通院の機会があり、様子を確認することができます。この時の採血で健康診断としての項目もチェックできるので、少なくも中年齢以上の子には健康診断の実施も合わせてお勧めしています。ところが猫になると、キャリーケースなどの入れ物に慣れていないと病院に連れてくること自体がむずかしい場合もありますよね。連れては来たけど興奮していて飼い主さんも触れないような場合もあります。こうなると連れてくるのが大変で、動けなくなってからようやく連れて来たら病気の末期だった、ということにもなりかねません。さらにとても臆病な子の場合、先ほどの話にも通じますが、採血もできないほど暴れることがあります。こうなると思うような治療ができないケースも考えられるんです。飼い主さんも鎮静剤や麻酔を使ってまではやりたくない、とおっしゃることもありますし。

はかる場:いざという時を考えると、病院に慣らすことも必要かもしれませんね。

中村先生:少なくとも年に一回くらい来院していただくと、動物も少しは病院という独特な雰囲気の場所に慣れることができると思います。我々としても、飼い主さんや動物のことを覚えていられます。何年も空くとわからなくなってしまいますが、年に一度が続いていけばその子の性格もわかってきますし、毎年のちょっとした変化にも気づけます。ただ、飼い主さんは連れて来たくても先ほどの猫の話のように連れて来られない場合もあります。ですので、できるだけ病院が怖くないように、予防などで来院する際には大好きなご褒美を持参していただき、診察台の上で与えてもらったりします。ワンちゃんでしたら、お散歩の途中にでも寄っていただき、院内でご褒美をあげたり、スタッフに抱かれたりして普段から慣れておいてもらうのも一つの方法です。ときどきでも来院していただければ身体検査で初期の病気の兆候を見つけられることもあり、「今は詳細な検査や治療はしなくてもいいですが、このまま進行したら2年か3年後には必要になるでしょう」といったお話と、これからの対策を説明でき、心の準備もしていただけるかなあと思います。

調子が悪くて弱っているときは、診察も検査も何でもできるんです。でも繰り返しになりますが、その時にはかなり進行してしまっている可能性が高い。一方で少し良くなってきたり、そこまで症状が出ていない時だと元気すぎて何もできない、ということも起こってきてしまいます。なので、慣れてもらうために病院に来てもらう。健康な時から、怖くないんだよ、と慣れておいてもらうのはすごく重要ですね。


動物病院で「血液をはかる」ことが果たす役割とは

動物病院におけるコミュニケーションはいちに飼い主さんへの問診、続いて触診をはじめとした診察。多くの異常はここで判断することが多いそう。見つけた異常の原因を探り、治療方針を決める大きな材料になるのが検査です。ここで「はかる」の出番です。

はかる場:この連載では「動物の健康をはかる」というテーマの中でも、代表的な検査項目である「血液をはかる」ことにフォーカスしてきました。血液検査は比較的早い段階でされるものだとか。

中村先生:そうなんですが、動物の場合採血をするのも人のように自分で手を出して、終わるまでおとなしくしているということはほとんどありません。待っていてくれるわけがないので押さえないといけないんですよね。体重が30kg、40kgあるような大きな犬だったら血管も太いので、おとなしければ簡単に採血できるんですが、2kgくらいの小型犬の場合、脚も短いし血管も細いし、ものすごくむずかしい。さらに、暴れる猫なんかはもう猛獣です(笑)。押さえられません。おうちでは聞いたこともない唸り声を出して、飼い主さんが驚かれることもあります。

はかる場:あんなに可愛い猫なのに(笑)

中村先生:ですので、できるだけ興奮させないような工夫をしています。先ほどの慣れるということにもつながるのですが、犬ではご褒美の使い方を説明し、猫では「連れてくる時のキャリーケースは普段からおうちとして利用しておいてください、洗濯ネットのような袋に入れて連れてきてください」など、病院に来る前から普段の生活の中で準備をしていただき、診察台上で興奮させないようなアドバイスをしています。採血自体は動物にとってそれほど負担になる検査ではありませんが、苦痛にならないように非常に気を遣っています。

はかる場:血液をはかることで実際にどんなことがわかりますか?

中村先生:そのときの状態ですね。何かを診断するというよりは、いま身体の中で何が起こっているのかを知る。調子が悪いのであれば、どういう変化をしているのか見極めるというのが、一番の目的になるのかなという感じです。検査はあくまでも、病気を確認するための道具のひとつ。どんな状態かをお聞きし、診察をして、そのうえで検査によって細部を詰めていきます。ただし、何がどうおかしいのか、問診や診察では判断できない時もあります。その時はやはり検査が必要で、その結果から方針を立てていくことになります。

はかる場:自動血球計数装置を使われていますが、この装置の果たしている役割を教えてください。

中村先生:大きなところでは正確に血液の状態を把握できること、結果が速いので院内での迅速な評価ができる、というところです。小型の動物は採血量が限られています。何回も採血を必要とする検査や、たくさんの血液を必要とする検査は、それ自体が難しいですし、体調が悪くて血圧が低下した小型の動物となると採血自体が非常に困難。少量で多くの項目が検査可能な自動血球計数装置には助けられています。


はかる場:動物病院において「はかる」が果たしている役割はズバリ?

中村先生:病院に来たらまず、体重をはかります。体温をはかります。聴診をして、心拍数もはかります。飼い主さんからお話しを聞いて、検査に進めば血液もはかります。たとえば貧血。まぶたの裏が白い、舌が白いと、見た目でわかることでもあるんですが、その具体的な度合いを知るためにはヘマトクリット値が指標になります。はかることで数字が出てきますが、治療をしたあとに良くなっているのか、効果が出ずに症状が進んでいるのか、客観的な変化がわかります。また、年に一回健康診断を繰り返していれば、前年の結果と比べてどうなったかなど、長期的な健康状態が非常にわかりやすくなります。


共通の言語を持たない人と動物のコミュニケーション。飼い主さんとの対話や、日ごろからの観察、定期的な健康診断など、動物の健康を良い状態に保つためには多角的なケアが必要です。その中で、はかることで数値化する、この作業が果たす役割も小さくないでしょう。

「やっぱり調子が悪かった動物が元気に帰れるというのが、自分を含めてスタッフが一番うれしいことかなと思いますね。たとえば人馴れしていない猫を調子が悪いと連れて来られた場合、当たり前ですけど体調が悪いので最初はおとなしいんですよね。動けないから診察、検査、治療となんでもできるんですが、いよいよ治って退院しましょうという時にはもう手に負えない。あんなにおとなしかったのに怒ってるみたいに(笑)。でも怒るというのはそれだけエネルギーを使うことなので、元気になった証拠なんです。獣医は常に嫌がることばかりするし、動物に感謝される仕事じゃない。でもそういう怒ってる姿を見ると、よしよし、元気になったな、という感じでうれしくなりますね(笑)」

最後にこの仕事のやりがいを尋ねると、苦笑いしながらこう答えてくれた中村先生。ペットがいるご家庭では「家族の一員」という考え方が当たり前ですが、家族の一員であり続けるためにも人との違いをあらためて知り、より深い愛情に確かな知識を加えて接することが大切なようです。

 

 

めぐむ動物病院
院長 中村 仁先生
〒601-8394 京都市南区吉祥院中河原里北町49
TEL:075-313-4655
ホームページはコチラ

 

動物の健康をはかる

>>動物の健康をはかる[1] 意外と知らない“ペットの健康
>>動物の健康をはかる[2]  「血液をはかる」意味と仕組み
>>動物の健康をはかる[3] 動物の血液をはかる

Page Top