はかる場 » 血液をはかる http://www.jp.horiba.com/hakaruba はかる場」とは、「はかる」ことで「見える」ようになる世の中のアレコレを紹介するメディアです。 Thu, 19 Nov 2020 04:47:00 +0000 ja hourly 1 http://wordpress.org/?v=3.5.1 血液をはかる[3] 「血液をはかる」とわかる無数のこと https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1589/ https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1589/#comments Thu, 26 Feb 2015 02:00:42 +0000 遠藤英之 https://www.jp.horiba.com/hakaruba/?p=1589 前回は、「血球計数・CRP測定装置」で行う血液検査の詳しい仕組みについてご紹介しました。最終回となる今回は、血液検査の現場を取材。京都市の公益財団法人京都健康管理研究会 中央診療所所長・長井苑子医師にお話をうかがいました。

はかる場編集部も実際に血液検査を体験。検査結果も踏まえながら、血液検査の「今」をお伝えします。


迅速! 「血球計数・CRP測定装置」で血液をはかってみた

今回の連載でもたびたびお話してきましたが、血液検査はとても身近なもの。あらためてその事実を確認すべく、まずは取材陣自ら血液検査を受けてみました。

test1検査の内容に合わせて必要な量だけ採血します。今回は、「血球計数・CRP測定装置」の検査に必要な2 ccを採血しました。痛みはほとんどなく、スムーズに終了。

test2採取した血液が入った「採血管」を、装置にセットします。血液のみ装置内に取り込まれ、空になった採血管がすぐに外に出されます。

test3血球の数やヘモグロビン量などの検査結果が画面に表示されます。結果がでるまで約4分。まさに迅速!

test4検査結果がすぐにプリントされます。白血球・赤血球・血小板の数、ヘマトクリット値(血液中に占める血球の体積の割合)、MCV/MCH/MCHC(貧血の種類を示す指標)、CRP(炎症の程度を示す指標)といった13項目に加え、白血球に関する詳しい情報を見ることができます。この内容を診断の材料にしていきます。

HORIBAの「血球計数・CRP測定装置」の特徴はなんといっても迅速さ。採血から結果が出るまで10分程度しかかかりません。検査結果がわかるまでに少なくとも数時間~数日を要することもありましたが、この装置を使えば再度結果を聞きに来る手間も省けます。また、何か問題が見つかった場合、その場で次の手を打つことも可能になりました。

では早速、結果を見ながら、現場ならではの血液検査事情をうかがいます。


病気の原因や、治療の効果を知るための血液検査

専門は呼吸器内科の長井さん。血液検査をどのような目的で役立てているのでしょうか。

sub1はかる場:さまざまな患者さんがいらっしゃるかと思いますが、長井さんのご専門だと一日にどれくらいの患者さんに血液検査をされますか?

長井さん:私は呼吸器内科医師で、診療所でも呼吸器の外来をしています。しかし、一般的な外来というよりは、サルコイドーシス、間質性肺疾患、膠原病(こうげんびょう)といった特殊な病気を専門に扱っています。サルコイドーシスは全身性疾患、間質性肺疾患は肺の疾患、膠原病は自己免疫疾患の一種で、呼吸器に種々の病変があらわれます。いずれも発症例は多くない難病で、外来としては特殊な診療になるため、患者さん一人あたりの診察時間が比較的長くなります。一日に多くても40人くらい、少ない時は20人くらいしか診ることができません。そのうち血液を調べるのは、概ね半分~6割くらいかと思います。

はかる場:血液検査を行うかどうかは、どのような基準で判断するのでしょうか。

長井さん:複数の視点から判断します。まず、炎症状態を調べなければいけない時は必要です。顔色が悪くてフラフラしていたり、貧血が疑われる方にも血液検査は重要です。たとえ貧血であることが明らかな場合でも、検査することでその原因がわかります。鉄分が不足しているせいなのか、赤血球が溶かされて起こる自己免疫性の溶血性貧血なのか、悪性疾患が隠れていないか、など原因が詳しくわかります。また、治療中の患者さんの治療効果を知るためにも使われます。ステロイドや免疫抑制剤の薬を入れたことで、血糖値が降下や上昇していないかなど、副作用の有無を調べるのです。

はかる場:血液検査は、はかる目的によって種類も異なると聞いています。

長井さん:今回体験していただいた「血球計数・CRP測定装置」を使った「迅速検査」では、血球やCRPだけを調べます。糖やコレステロールを調べるためには生化学検査までを行うケースもあります。何を調べるかによって必要な血液の量も異なり、前者の「迅速検査」だけであれば2 ccで十分、血糖値を調べるためには抗凝固物質を入れる必要があり、検査ごとに血液を別の採血管に分けないといけないので、必然的に採血の量も多くなります。大体、20 ccくらいが多いですが、場合によっては30 ccくらい採ることもありますね。


白血球やCRPが、思わぬ事実を教えてくれる

血液検査は患者さんの体の状態を明らかにします。それはその時だけでなく、普段の生活まで明らかにすることも。

sub2はかる場:今回の検査で私のCRPの値はゼロでした。CRPは感染症についての重要なマーカーですが、感染症にかかった場合、この数値はどのくらいまで上がるのですか。

長井さん:軽い風邪だったら0.6~0.9 mg/dlぐらいの値になりますし、気管支炎であれば2~5、一桁の動きが出てきます。肺炎など重症化していれば、10~20 mg/dl程度まで上がります。数値の大きさからある程度推測が立てられるので、CRPが高いからレントゲンを撮って確かめましょう、と、診断を進めていくことができます。また、咳や痰があるけれども、CRPが陰性の場合には、気管支の過敏性で喘息あるいは喘息様の症状が出ているので、感染症によるものではないという判断もできます。喘息、花粉アレルギー、喫煙による過敏性などと、細菌、ウイルスなどの微生物による気管支炎とを比較的容易に鑑別できるという利点を感じています。

はかる場:CRP以外にも12項目の数値が出ていますが、この中で特に注目すべき数値はどれでしょうか。

長井さん:やはり白血球の数ですね。たとえば、CRPも高く、熱もある状態で白血球が大きく増加していれば、細菌感染症の兆候だといえます。すぐに抗生物質を使おう、という判断ができます。白血球の数が減少していて、かつCRPが陽性ならば、ウイルス感染を疑うことができます。

はかる場:今回の検査では、白血球は5,300 /μlとなっています。これは100万分の1リットル中に白血球が5,300個あるということですね。

長井さん:はい、そうです。それくらいが正常な値です。白血球の数は、さまざまなことを教えてくれます。昔、予防医学センターの呼吸器外来に非常勤医師として勤務しながら、タバコ外来というのを8年くらい継続していたことがあるのですが、喫煙者は白血球が増えることを知りました。5,300という値が12,000くらいまで上がることもあります。そのため、白血球が多い場合でも喫煙者か否かで判断が変わってきます。喫煙者は禁煙すれば白血球の数が減りますし、非喫煙者であれば、炎症が起きて細菌感染などが起きているという可能性を第一に考えられます。

はかる場:これまで多くの患者さんに迅速検査をされてきたと思いますが、印象深いエピソードはありますか?

長井さん:私は慢性の呼吸不全の方をたくさん診ています。酸素が不足して、運動時の息切れ症状をはじめ、心臓への負担がかかる病気です。患者さんには出歩く時には酸素ボンベを携行し、酸素を吸うようにお願いするのですが、使いたがらない方も多いんですね。診察時に「酸素を使っていますか?」と聞くと、みなさん「使ってますよ」と言うのですが、検査で赤血球の数と血色素量・ヘモグロビンの数値を見ると本当かどうかがわかります。ヘモグロビンは体全体に酸素を送る役割を果たしますが、酸素の量が少ないと、酸素の量を増やそうとヘモグロビンが増えるんです。ですから、ヘモグロビンの数値が高いと、「きちんと酸素を吸っていないな」と推測できるんです。これは二次性多血症というのですが、一方である患者さんでは呼吸器の病気がないのにヘモグロビンが17 g/dl以上を示しており、真正多血症を疑って血液内科に送ったところ、診断が正しかったこともあります。また、ひどい貧血で迅速に胃カメラをして胃がんを発見できたこともあります。

はかる場:ごまかそうとしても、検査の数値を見ればわかってしまうんですね。

長井さん:そうなんです。リウマチの病勢を抑える薬として、リウマトレックスという、週に1回だけ服用して治療する薬があり、私はその薬をサルコイドーシスの患者さんにも使うことがあります。サルコイドーシスの治療にはステロイドが使われますが、副作用が多いため、できるだけステロイドの量を増やさないように、リウマトレックスを併用しています。その薬を使っていたある患者さんに迅速検査をしたところ、白血球が1,500、ヘモグロビンが7、血小板が1万~2万という具合に、血球がものすごく減っていたことがありました。驚いて、これは薬を間違って飲んでいるんじゃないかと思って聞いてみたら、「毎日飲んでました」とおっしゃって大慌てしたことがありました。そのまま知らずに服用していたら、本当に大変なことになっていたかもしれません。この薬は週一回のみ服用するという飲み方を指導していたのですが、患者さんが間違っていたわけです。常に、飲み方にもチェックをいれることが重要です。

はかる場:採血してすぐに結果がわかることも、重大なアクシデントを防ぐためには欠かせない要素ですね。

長井さん:検査センターに出していたら最低でも数時間から1日はかかるので、患者さんを長時間待たせるのか、後日来ていただくことになります。それがこの迅速検査だと10分で決着がつくので、その場で総合的に判断して速やかに次の一手を打つことができます。それは医者にとっても患者さんにとってもありがたいことですね。


血液検査の経過を把握することが重要

最後に長井さんに「血液をはかる」ことの大切さと、意味についてお聞きしました。

sub3はかる場:患者の立場として、血液検査のデータを有効活用するために心がけておくことはありますでしょうか。

長井さん:血液検査で大切なのは、一回一回の数値よりも、その経過です。どう変化しているかを知っておくことが大切です。特に、急性疾患では、一回の結果で判断が必要ですが、慢性疾患では、経過を知っておくことが重要です。健康状態や年齢によって、同じ数値でも持つ意味は変わってきます。たとえば、がんに関する数値が悪かったとしても、高齢であれば、次にどうすべきかを慎重に考えることが必要です。老化とともに、発がん性は増加するのが生物の宿命のようなものですから。一方、40代くらいの若い方ががんになって余命1年だなんて言われたら大変ですよね。そうならないためにも腫瘍マーカーなどを1年に一度くらいはかって経過を見て、数値が上がってきているようであれば、胃カメラや大腸内視鏡をする。そうすれば多くの場合、大事に至る前に手を打つことができるのです。

はかる場:特に具合の悪いところがなくとも、健康診断などで定期的に血液検査をすることはとても重要なのですね。長井先生にとって「血液をはかる」とは、どのような意味を持つのでしょうか。

長井さん:血液検査は、身体に起きている問題を知るための一番容易な方法の一つだと思います。針を刺すという小さい侵襲はありますが、必要な情報を得るためには過剰でもなく、過少でもなく、とても適した手段ではないかと思っています。私たちの病院では、必要に応じていろんな患者さんに血液検査をしており、その重要性を常に実感しています。患者さんにも血液検査の必要性と、その結果についてしっかりとご説明することを心がけています。ぜひ多くの方に、血液検査の重要性を理解していただき、普段から積極的に受けにきていただければと思います。もちろん、問診をして、血液の中のなにを調べる必要がありそうかを考えての採血ということです。


3回にわたってお送りしてきた「血液をはかる」。私たちの身体をめぐる血液が、いかに多くの情報を持っていて、その状態を知ることが重要だということを実感していただけたのではないでしょうか。HORIBAの野村さんは「血液は自分の健康状態を写す鏡のようなもの」、長井さんは「血液検査は、身体に起きている問題を知るための、一番容易な方法の一つ」とおっしゃいました。血液をはかることは、まさに自分自身を知ることなのだと言えそうです。

 

血液をはかる

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血液をはかる[2] 血液検査のしくみと、その先に見える未来 https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1535/ https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1535/#comments Mon, 22 Dec 2014 02:00:46 +0000 遠藤英之 https://www.jp.horiba.com/hakaruba/?p=1535 前回の記事では血液検査の種類や役割などを、私たちの生活に絡めた身近な視点でお話しました。数百を超える項目の検査が可能で、いまなお新たな利用法の研究が進んでいるという血液検査。人々の健康的な生活に対して、担う役割の大きさを実感します。今回は、「血液をはかる」仕組みについて、HORIBAで「血球計数・CRP測定装置」の開発を担当している野村尚之さんにお話をうかがいました。


血球の数を数えると血液の状態がわかる

「血球計数・CRP測定装置」は、その名のとおり、「血球の計数」と「CRPの測定」を同時に行える装置です。それぞれをはかる仕組みについて、野村さんに教えていただきました。

sub1はかる場:まずは、野村さんの専門分野である「血球計数」についてうかがえますか。

野村:血球計数とは、血液の主要な要素である血球成分(赤血球、白血球、血小板)の数や状態を調べる検査です。CBCという略称が使われています。「血液学的検査」とも呼ばれ、血液および身体全体の健康状態を知るための重要な指標になります。

この検査の特徴として、「標準物質」がないことが挙げられます。何かをはかる場合、通常は基準となるものがありますよね。たとえば長さの「5センチ」、重さの「10グラム」といえば、その量を誰もが同じくはかることができます。つまり、「10グラムとは何か」を客観的に示す基準となるものがあります。それが標準物質です。血球の計測には、それがありません。理由は常に活動しているためです。白血球1,000個をはかろうとしても、はかっている時間内にも新たに生まれたり、死んだり、移動したりと変化し、測定したタイミングによってばらつきが発生してしまうため、「白血球1,000個」という量を客観的に決めることができないのです。

ものさしのない分析機器というか、まったく同じ条件で計測しても同じ結果が得られないということに注意が必要です。

はかる場:はかるのに基準がないというのは驚きですね。CBCの仕組みについて、もう少し詳しく教えてください。

野村:赤血球、白血球、血小板ともに、基本的にはかる原理は同じです。まずは採血した血液を、専用の希釈液で薄めます。血球は血液中に大量に含まれているので、数えやすくするために、一定の体積あたりの血球の数を薄めて減らす必要があるのです。

次に、薄めた血液を測定機器の「アパーチャ」と呼ばれる微細孔内に一定の流速で流し、直流の電流を流します。血球は「電気を通しにくい性質」をもっているため、血球がアパーチャを通ると抵抗が生まれて電流の値が揺らぎます。血球1つに対して揺らぎが1つ生じるため、揺らぎの数を数えれば通った血球の数がわかるというわけです。流速を一定に保っているので、指定した時間内に何個流れたかを調べることで、一定の体積の中に何個の血球があるかがわかり、そこから血球の濃度を計算できます。

はかる場:流れてくる血球を1個1個数えるんですね。血球は、たとえば赤血球であれば、1マイクロリットル(=0.001 ml)中に400万個程度もあるとのことですが、そんな数のものを1個1個数えられるのですか?

野村:はい、できます。たとえば赤血球と血小板の計数のためには、HORIBAの装置の場合、1万~2万倍に薄めます。すると、同じ1マイクロリットル中でも、赤血球なら数百個程度しかないことになります。それくらいの数になれば血球同士がくっつきあって詰まったりすることなく、1個1個、アパーチャを通っていくことができます。赤血球と血小板は同時にはかりますが、両者はサイズが異なるため、通過する時の電流の揺らぎの大きさによって区別できます。揺らぎが大きいのが赤血球で、小さいのが血小板です。

はかる場:なるほど。白血球についても同じ仕組みなのでしょうか?

野村:白血球は、赤血球と血小板に比べてぐっと数が少ないので、別に計数します。赤血球の1,000分の1ぐらいの個数しかないのです。そのため、数百倍に薄めれば血球が1個ずつアパーチャを通るようになります。

白血球を数える際は、数が多い赤血球や血小板に埋もれてしまわないように、溶血剤という薬剤によって白血球以外の血球を溶かします。白血球はリンパ球、単球、顆粒球の3種に分類されますが、溶血剤により白血球自体も収縮し、その収縮具合がそれぞれで違うため、3種を区別できます。収縮させた状態で電気を流すと、アパーチャを通るときの電流の揺らぎの大きさも3種で異なり、それぞれの揺らぎの数を数えればリンパ球、単球、顆粒球が各々どのくらいあるかがわかります。

はかる場:CBCはその名のとおり、血球の数を数える検査と理解しました。血球の数を数えると、どのようなことがわかるのでしょうか。

野村:血球の数は、身体の状態を知るためにとても重要な情報です。一般的に、赤血球の数が少ないと貧血状態を示し、多すぎると血の流れが悪くて血管が詰まりやすい状態にあるといえます。白血球は身体に細菌などの異物が入ってくると、戦うために数が増えますが、多すぎると白血病が疑われます。少ない場合もさまざまな可能性が考えられ、何らかの病気かもしれないと考える一つの指標となります。


感染症対策の重要な指標「CRP」を迅速にはかる

sub2はかる場:次に「CRPの測定」について教えてください。

野村:CRPとは「C-反応性タンパク」のことで、組織が損傷したときや微生物が体内に進入したときに血中にあらわれるタンパクの1つです。炎症反応の強さと関係し、病気や怪我の重症度を反映して増減することがわかっています。

はかる場:HORIBAの「血球計数・CRP測定装置」は、「血球の計数」と「CRPの測定」の両方が同時にできるということが強みだとうかがいました。

野村:HORIBAがこの装置を開発したのは1990年代にさかのぼります。当時の開発者がある医師に「血球の数とともにCRPも測定することができたらいいのに」と言われたのがきっかけだそうです。CRPを白血球と同時に計測し、両方の値を見ると、感染症にかかっているかどうかなどを迅速に診断することができるからです。

一例としては、白血球の増減とCRPの増減を見ることで、ウイルス感染なのか、細菌感染なのかを判別できます。体内に細菌が侵入すると白血球が活発に活動するのは先ほどお話したとおりですが、白血球が増え、細菌を退治するとともに、CRPも増えます。一方ウイルスは、一見異物ではないかのようにふるまって細胞をだましながら細胞に取りつくため、白血球が異物と判断するのが遅れます。そのため、ウイルス感染の場合は、白血球は増えずにCRPが軽度に増えることになります。

はかる場:具体的にはどのような病気に有用なのでしょうか。

野村:高熱が出たものの理由がわからない、そんな時に感染症の原因がウイルスなのか細菌なのかがわかれば、抗菌薬を投与するか否かの判断ができます。ウイルス感染の場合には、抗菌薬を投与しません。最近はインフルエンザの判定に鼻の奥に長い綿棒を入れて粘膜を採取する簡易検査が多く使われていますが、あの検査はインフルエンザか否かを判定するのみであるのに対して、血球とCRPを同時に測定すると、白血球とCRPの値によって、インフルエンザのみならずほかの感染症にかかっている可能性も知ることができます。また、リウマチの患者さんにもよく使われます。CRPの値からリウマチの炎症の強さを見て、薬の効果判定に利用されます。

血球とCRPを同時計測する装置は、我々が特許を持っているため、今のところHORIBAの製品しかありません。同時にはかれるという強みに加え、4分半という迅速さで行うことができるのも特長です。モデルチェンジを続けながら、医療現場の第一線で活躍を続けています。


血液は、私たちの身体の状態を映す鏡

「血液をはかる」方法については今も日夜、新たな研究が進んでいます。最後に野村さんに、血液検査の今後の展望についてうかがいました。

sub3はかる場:実際に血液検査の機器の開発にたずさわる野村さんにとって、血液検査の未来に対して、展望や希望をうかがえますか?

野村:血液検査がもっと身近なものになればいいなと思っています。血液以上に身体の状態を教えてくれるものはないからです。ただ血液は、現状は採血しないと検査できず、痛さもさることながら、なかなか家庭で手軽にというわけにはいきませんよね。血を採らずとも血液の状態を知ることができるようになれば、きっといろんなことが変わるはずです。

はかる場:採血せずに遠隔で血を検査するということですよね? 夢のような話に思えますが、研究は進んでいるのでしょうか?

野村:いろいろ興味深い話はありますね。造影剤を静脈に注射すると、心臓を経由して造影剤が身体の各部の血管に流れていきますが、その状態で身体に蛍光を当てると血流が見えるようになります。その影から赤血球などの流速を見たり、ヘモグロビンの値を見るという研究はされているようです。また、採血の代わりに体内にセンサーを埋め込んで、その値をスマホで読み取って血圧や血糖値を見ようという発想もあります。どちらにしても、身体に何かを入れる必要があり、実用化するのは簡単ではなさそうですが。

はかる場:SFみたいな話ですね。

野村:もし埋め込み方式で血液の状態を常にモニタリングすることができれば、いろんな可能性が広がります。たとえば心筋梗塞が起きる場合、発症の4時間ぐらい前には血流に異常が生じると言われています。つまり、4時間前の段階でその予兆に気づくことができれば、突発的な傷病を回避できるようになるわけです。

はかる場:事前に救急車を呼ぶこともできますね。

野村:そうなんです。心筋梗塞に限らず、血液に予兆が現れることは少なくありません。今はまだ常時モニタリングを実現する技術はありませんが、それでも年に1,2回程度は血液検査をして、自分の血液の状態を把握しておくことはとても重要です。血液検査では正常基準値が決められていますが、その範囲内に入っているから問題ないとか、入ってないから問題があるとは必ずしもいえません。正常値は一人ひとり異なるからです。注意しなければならないのは、今までずっと似たような値だったのが急に変化した場合です。何か問題が起きているかもしれないことを示すシグナルになります。そうした変化に気づくためには定期的に血液検査を受け、自分にとっての基準値を、一人ひとりが知っておくことが大事なのです。

はかる場:最後に、「血液をはかる」とは、私たちにとって、また野村さんにとって、いったいどういうものでしょうか。

野村:血液は自分の健康状態を写す鏡のようなものです。血液検査の数値は、どんなに繕っても化粧をしても隠すことはできません。その事実を私たち自身がしっかりと受け止めて、自分の状態を知っておくことが、健康に生きていくうえでは大切なんだろうなと感じます。

HORIBAは血液検査の世界に入ってまだ20数年です。他のメーカーさんに比べてもまだ若手の方だと思うので、これからもっともっと幹を大きくして、枝を伸ばしていく必要があります。血液検査をより簡単で便利なものにして、少しでも多くの人に手軽に受けてもらえるものにできるよう、自分ももっと貢献していきたいです。


次回は、HORIBAの「血球計数・CRP測定装置」が使われている病院を訪ねます。現場ならではのお話をうかがいつつ、実際に血液検査を体験レポートします。どうぞお楽しみに。

 

血液をはかる

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血液をはかる[1] 検索項目は数百以上! 「まず血液を」が意味すること https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1456/ https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1456/#comments Fri, 31 Oct 2014 05:00:31 +0000 遠藤英之 https://www.jp.horiba.com/hakaruba/?p=1456 病院に行って、何かの病気かもしれないということになると、医師から「まず、血液をとってみましょうか」と言われることが多いですよね。飲み屋では「とりあえずビール」であるように、病院では「まず血液」なのです。それだけ血液が重要視され、ある種の「定番」であることにはもちろん、理由があります。血液を調べると、その人の健康状態について本当に多くのことがわかるのです。

今回は、まさに血液を「はかる場」である、血液検査がテーマです。血液はどうやってはかられるのか、はかったら何がわかるのか。誰にとっても身近ながら意外と知られていない血液検査の実態をご紹介します。


sub1病院で血液検査を受けて結果をもらうと、医師から数値が高かったり低かったり、気にした方がよさそうなところについて説明があります。一般的に、項目は全部で30程度並んでいますが、ほとんどの人にとって大部分は、何を意味しているかわからないまま聞いていることがほとんどなのではないでしょうか。実は、あの結果に書いてあるのは、血液検査の結果からわかる内容のほんの一部でしかありません。血液検査によって検査可能な項目は、なんと2000項目以上あるとのこと! 比較的よく使われている項目だけをとっても、実に200~300項目もあるそうです。血液検査からわかることがいかに多いかを、感じさせられる数字です。

ただもちろん、これらすべての項目が1種類の検査によって得られるわけではありません。ひとくちに血液検査といっても、その種類はさまざま。採血をされる側にとっては、どの検査であれ“チクリと針を刺されて血を抜かれる”ことには変わりはありませんが、何を調べるかによってその後の検査内容が違ってきます。主なものとして、次のような検査が挙げられます。

・血液学的検査……血液の主要な要素である血球成分(赤血球、白血球、血小板)の数や濃度、状態を調べます。白血病や貧血などの血液の病気がわかるのみならず、身体全体の健康状態を知るための重要な指標になります。「全血球算定(CBC:complete blood count)」とも呼ばれます。

・生化学検査……血液中に含まれる血球成分以外の、糖、タンパク、コレステロールといった各成分を調べます。肝臓や腎臓などの内臓に問題がないかどうかがわかります。

・凝固検査……出血したあと、正常に血が固まって止まるか(止血機能)を調べることで、出血傾向と肝機能に問題がないかどうかなどがわかります(血液を固めるための物質は肝臓で作られます)。

・免疫学的検査……ウィルスや細菌による感染症にかかっていないかなどを調べます。

「まず血液検査を」という場合の検査は通常、血液学的検査と生化学検査を組み合わせたようなものになります。ざっくり言うと、前者の検査で、血液の主要成分(液体でない部分)である赤血球や白血球の状態を調べ、後者の検査で、それ以外の成分(血漿)を調べることになります。白血球の数が異常に多ければ白血病が、少なければ慢性肝炎が疑われたり、赤血球の数が多すぎると、たばこの吸い過ぎや過度のストレスを原因とした疾患が考えられます。また血漿に含まれる物質の量を調べることで、肝炎や心筋梗塞、動脈硬化、糖尿病、痛風など、多くの病気の可能性がわかります。

このようにして、血液の各要素を別々に検査することで、いろんな病気の可能性を知ることができるのです。


アルツハイマー病も、がんも、血液検査によって早期診断ができる時代に

私たちは現在、各種の血液検査を組み合わせることですでにかなりの量の情報を得られるようになっていますが、血液検査自体は今もなお、新たな研究や技術開発によって進化を続けています。

たとえば、これまではとても検出することができなかった極々微量の血中の物質が検出できるようになっています。その成果の一つが、アルツハイマー病を発症する以前に血中に含まれる原因物質を検出して、発症前の予防が可能になるかもしれないという研究です。また、がんになると血液中の「マイクロRNA:ribonucleic acid」という物質に変化が表れることがわかってきていますが、その性質を利用すると、13種類のがんが血液検査での早期発見につながる可能性があるとか。

白血病やがんといった、人々が長く苦しめられている病気から、昨今では世界規模の感染症も問題視されています。血液検査と、その技術の進化はますます重要度を増していきそうです。


次回は、血液検査のより具体的な中身に迫っていきます。どのように血球の数を数えているのか、どうして血中の成分がわかるのか。その仕組みについて掘り下げていきます。

 

血液をはかる

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しっかり走っても、ひっそり病は進みます。 https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1409/ https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1409/#comments Fri, 17 Oct 2014 02:00:01 +0000 遠藤英之 https://www.jp.horiba.com/hakaruba/?p=1409  

日課は朝のランニング。休日はスポーツ三昧…と、自分では健康的な身体を維持しているつもりでも、気づかないうちに病魔は体内で静かに進行していくものです。HORIBAの技術は、病気の診断に大きなヒントを与えてくれる血液中の成分を、微量な血液で測定。病気の早期発見や効果的な治療方針の立案などにご活用いただいています。医療現場で医師の適切な判断をサポートするために。より高精度な測定技術の開発に、今日もHORIBAは心血を注いでいます。

 

※広告シリーズ 「見えないけど、見つけられる。」 WEDGE(ウェッジ)2014年11月号より

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