はかる場 » 文化財をはかる http://www.jp.horiba.com/hakaruba はかる場」とは、「はかる」ことで「見える」ようになる世の中のアレコレを紹介するメディアです。 Thu, 19 Nov 2020 04:47:00 +0000 ja hourly 1 http://wordpress.org/?v=3.5.1 浮世絵の「復元」に分析技術が貢献 ~当時の色を蘇らせる、HORIBAの色材分析~ https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1691/ https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1691/#comments Thu, 19 Nov 2020 04:47:00 +0000 霞上さおり https://www.jp.horiba.com/hakaruba/?p=1691 HORIBAグループでは、10ヶ国・17拠点に分析センターを置き、各国最先端の分析ニーズに対応しています。日本では、東京と京都にある「HORIBAはかるLAB」(以下、はかるLAB)を拠点に、製品のデモンストレーションや受託分析、共同研究などを通して社内外へ分析技術を提供しています。幅広いアプリケーションに対応した受託分析では、企業の製品開発や品質管理に関わる分析はもちろん、文化財や美術品の分析も請け負っており、貴重な作品類の保存や修復、真贋判別などに貢献しています。

このたびはかるLAB(東京)において、HORIBAとしては初となる「浮世絵」の絵の具に関する分析を請け負いました。依頼くださったのは、浮世絵復元家として、鎌倉でその技法の研究や作品づくりに取り組む下井 雄也さん(下井木版印刷所)です。
浮世絵の復元に対し科学的な分析がどのように貢献できるのか、またHORIBAに期待することなどについて下井さんにお話を伺いました。


めざすのは、江戸時代の浮世絵を現代に蘇らせること

まずは、どのような目的で今回の分析依頼をくださったのか、その背景をお聞きしました。

はかる場:浮世絵の「復元」とはどういったものでしょうか? 下井さんが浮世絵復元家となられたきっかけは?

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下井さん:“復元”というのは、いかにオリジナルと同質のものをつくるか、をテーマとしています。似た表現で“復刻”があり、浮世絵の世界でも多くの復刻版が出回っていますが、浮世絵復刻版の傾向としては、その時代その時代で求められる美術品や装飾品としての、よりグレードの高いものが目指され、作られてきたという部分があります。そのため極端に言えば、絵や構図は浮世絵でも、現代人の生活様式やセンスに合わせて色を大胆に変えてしまっているものもあります。結果的に、特殊な例外を除き、材料もオリジナルとはまったく別物であることがほとんどです。

反対に「復元」は、現代の感覚を取り入れず、紙や絵の具の材料なども含めて完成した当時の作品をいかに再現するか、に拘ったものです。
市場にはたくさんの浮世絵復刻版がありますが、私が見た限り、完全に当時の浮世絵を再現したものはありません。まったく新しいものになっているか、再現しようとしたものの達成されていないか、です。そしてその原因は、時代の流れのなかで紙や絵の具といった材料が消失し手に入らなくなってしまったことが一つ。もう一つは、復刻版が“美術品”を目的に作られているからだと考えています。

私はもともと木版画摺師として浮世絵の復刻に携わってきましたが、当時のモノをつくるのであれば、やはり紙や絵の具、技法にまで拘りたい、追求したい、という思いがありました。そこまで拘って、技法も材料も同じにして初めて、江戸の浮世絵は蘇ると考えているからです。そのため、改めて彫りの技術を習得し、自分で彫って摺って、材料も自ら調達し、それでもって自分の作品をつくることをめざしてきた結果、自然と今のスタイルになりました。

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はかる場:なるほど。まさに江戸の人たちが手にしていた当時の浮世絵を、紙や色合いなどの質感そのままに蘇らせる「復元」をめざしていらっしゃるのですね。具体的にはどのように復元作業を行っていくのでしょうか。

下井さん:浮世絵ではまず輪郭線を彫ってから、原画を見て、製版する上でどのように色分けするかの“色分解”を行っていきます。どんな色が、何色使われているのか?を判別していく作業です。この色分解は、よほど退色が進んでいない限り肉眼でもできる作業です。画集にある保存状態の良い作品と照合したり、仮に色が退色していても、図中から同じように退色している箇所を選び取ればいいからです。ただ、この後にそれぞれの色版を摺っていく工程で必要になるのが、「そこに何の絵の具が使われているか」という情報、つまり絵の具の色そのものの判別です。

浮世絵の色はそれぞれの摺師によって、その時代で手に入る材料の中から、各々が目的とする色を出すために必要なものが自由に選択されてきました。
語り継がれた情報がほとんど無い中、目に見える情報だけでは絵の具の材料まで正確に判別することは出来ません。そこで、「いかに同質のものをつくるか」という自分自身が達成したい本質を突き詰めるため、科学的な精密分析を取り入れることにしました。加えて、江戸時代の浮世絵の絵の具に関してはまだまだ謎の部分も多く、単に作品づくりのためだけではなく、江戸の浮世絵を研究する観点からも、当時の絵の具の分析は必要だと感じました。

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はかる場:その「謎」というのは例えばどのような・・・?

下井さん:普段は文献調査をしながら色の想定をしているのですが、例えば「黄色」の絵の具は何種類かあったとされつつも、これまでの調査では検出されていなかったり、或いは文献に無いものが検出されていたりもします。実際にどうだったのか、という明確なデータが圧倒的に少ないのです。作者や時代によっても使う絵の具は変わりますし、それがその後にどういう人の手に渡ったのかという変遷まで含めると、どんな材料で色が付けられているのかは本当に分かりません。
そのため、実際の浮世絵原画を用いて精密に分析してもらうことが必要だと考えました。分析計測をしている会社をたくさん調べましたが、文化財の分析を行っている会社で、かつ浮世絵などの染料の分析までできる会社はHORIBA以外には見つけられず、今回分析をお願いすることになりました。

はかる場:絵の具の色一つひとつにも当時の時代背景などが絡んでいると想像するだけで、ドキドキしますね。そのような現場に、分析を通して立ち会えることはとても有難いことだと感じます。

 


江戸当時の色に迫る、「はかる」技術

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今回、下井さんが持ち込まれたのは「東海道五十三次之内 水口 長右衛門」(嘉永5年/1852年)という作品で、作者は江戸時代後期に絶大な人気を誇った歌川豊国の3代目・国貞。かの有名な歌川広重の「東海道五十三次」を背景に、当時人気の役者を各宿場にちなんだ物語や風俗に見立てて配したシリーズの一つです。

今回、HORIBAで実施した浮世絵分析

浮世絵の絵の具には「顔料」と「染料」があります。鉱物系の絵の具に代表される「顔料」は日本画や西洋画にも用いられる一方、例えば「ウコン」や「ベニバナ」といった植物系の「染料」は、浮世絵の中でも特に江戸時代の作品特有とも言えます。他の絵画と同様に、顔料はX線分析で元素を解析することができますが、染料は金属ではないため元素分析ができません。そこで今回は、X線分析顕微鏡(XGT-5200)に加えて顕微レーザラマン分光測定装置(LabRAM HR Evolution)を併用することで、得られた分子構造から材料を解析する手法を取りました。
(→X線分析顕微鏡を用いた文化財の解析については過去の記事を覧ください。)

◆ラマン分光装置とは?
― 物質に光を照射すると、光と物質の相互作用により、入射光と異なる波長を持つ「ラマン散乱光」が出てきます。そのラマン散乱光を分光し、得られたラマンスペクトルから物質の種類や状態(分子構造)を解析する装置がラマン分光装置です。ラマン散乱光は入射光よりも非常に微弱なため、光源や分光器といった部品の性能や光学設計が装置の性能に大きく影響します。HORIBAのラマン分光装置では、分光分野のパイオニアとも言えるジョバンイボン(現ホリバ・フランス社)の技術に裏打ちされた最高峰のグレーティングをコアパーツとして搭載しています。
直接試料に触れないため、XGTと同じく“非接触・非破壊”の分析手法ではありますが、こちらは単色レーザーを照射するため、特に色が付いた試料は光を吸収しやすい傾向もある(測定条件によっては試料を傷付ける可能性もある)ことから、慎重に分析を行いました。

sub5◆X線分析との大きな違いは?
― 前述した通り、「染料」のような有機化合物など、金属元素を含まない試料はXGTを用いて元素分析することが出来ません。今回も、ベニバナやウコン、アオバナといった染料はラマン分光装置で解析しました。また、金属元素を含む試料であっても、他にどのような原子と結びついているかによって、その物質の成分(種類)はまったく別物になります。今回でいうと、「ベロ藍(C18Fe7N18):青系色」と「ベンガラ(Fe2O3):赤系色」はどちらも“鉄(Fe)”を含む物質ですが、それぞれ酸素や窒素、炭素などの原子と異なる配置で結びついているため、結果的には全く別の色ということになります。これらをXGTで分析した場合、同じ鉄(Fe)元素が検出できるものの、実際に何の物質であるかの同定まではできません。そういった場合に、化学的組成まで見る事のできるラマン分光が有効ということになります。


はかる場:今回の分析結果について、教えてください。

下井さん:自分で色分解をしてみて、特に判別が難しかったポイントを重点的に分析していただきました。いろいろ予想はしていたものの、結果的には多くのポイントで予想を裏切られる結果になりました。例えば、「鉛白(えんぱく)」という鉛から作られる白の絵の具が、予想以上に広範囲で使われていたことです。鉛白は他の色と混ぜて使われるというのは文献にも出ていましたが、今回の作品だと空や着物の大部分で鉛白を検出しました。白色としては他にも、牡蠣の殻でつくる「胡粉(ごふん)」もありますが、鉛白と胡粉がどのように使い分けされていたのかは解明されていません。当時の作者の任意なのか、もしくは何らかの規則性があるのか、それとも時代的な背景があるのか・・。同じように、色味としてではなく、顔料を水に溶く際の分散材や乾燥後の絵の具の剥離や分離を防ぐ目的で添加されていた「膠(にかわ)」についても、検出された部分とそうでない部分の規則性の有無など、不思議な点が幾つか見当たりました。
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また、思ってもみない素材も出てきました。唇部分で検出された「チタンホワイト」です。これは文献でも触れられていないばかりか、そもそも江戸時代には存在していなかった色なので、もしかしたら後年に補色などで塗られた可能性も考えられます。このように肉眼では判別できない、予想から大きく離れた結果もありました。謎が一層深まった部分もありますが、今後もっと分析点数を重ねていくことで、何らかの答えを見つけることができればと思っています。

はかる場:今回の分析結果をもとに「復元」した結果、作品の色味が大きく変わるような部分はありますか?

下井さん:そういう発見もありました。目尻の部分の色味はもともと、染料の退色だと思っていました。赤色で使われる「ベニバナ(紅)」は経年劣化により茶色く変色する傾向があるため、それだと思っていたのです。でも実際には「ベンガラ」だと判明し、最初から褐色だったということが分かりました。同様に他の赤色部分からもベンガラが検出されており、思っていたより渋めの赤が使われていたということになります。この分析結果が無ければ、当初の想定どおり紅をベースに、僅かにベンガラを加えた赤色で摺っていたはずです。目尻の部分は特に全体に与える印象も強くなるので、できあがりの作品のイメージはだいぶ違っていたのではないかと思います。

はかる場:分析結果一つで作品の色味やイメージまで変えてしまう場合があるというのは、とても責任ある役割であることを、改めて感じました。


浮世絵の復元に「はかる」が果たしていく役割

sub7はかる場:浮世絵の原画の分析は今回が初めてとのことですが、今後このような科学的なアプローチが、浮世絵の復元に役立っていくでしょうか。

下井さん:今回の結果からも、分析をするのとしないのとでは完成品の色がガラっと変わることもあると分かり、復元をする上で「分析」というのは大変有効な手段であると感じています。今回の分析だけではハッキリとしないこと、謎が更に深まったこともありますが、時代背景や、摺師それぞれの癖や技法といった要素も踏まえて江戸時代の浮世絵を研究していく上でも、大変いい発見となりました。
今後、この科学的な分析の点数を増やしていくことでデータを蓄積しながら、作品制作とともに研究を進めていきたいと思います。


彫りと摺り、そして色材も自ら採取しに行くなど、その道は決して容易ではないものの、江戸時代の浮世絵の“当時の姿”にとことん拘り、素材や技法まで突き詰めた上での「復元」に挑む下井さん。今回の分析結果ですべてがクリアになったわけではなく、新たな疑問が浮上した部分、この後の摺り工程の練り直しを余儀なくされた部分もあるとのことでしたが、その表情は明るく、浮世絵に実直に向き合う下井さんの姿がとても印象的でした。
浮世絵の色材分析を通して下井さんの大きな夢に触れ、またその結果や作品から、江戸の人々の生活や息使いにまで触れられることを、我々も大変うれしく思います。今後も、このような取組みを科学分析の立場から応援して行きたいと思います。

 

文化財をはかる

>>文化財をはかる[1] 文化財と、文化財が抱えている問題を知る
>>文化財をはかる[2] 壊さずに真実を解き明かす、X線分析顕微鏡
>>文化財をはかる[3] 文化財をはかることは、文化財から教えてもらうこと

 

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文化財をはかる[3] 文化財をはかることは、文化財から教えてもらうこと https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1474/ https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1474/#comments Fri, 28 Nov 2014 11:00:13 +0000 遠藤英之 https://www.jp.horiba.com/hakaruba/?p=1474 その文化的・歴史的価値によって、過去から現在、そして未来へと受け継がれる文化財。つくられた時代やつくった人々の想い、技術が込められた文化財をはかることは、時に真実を明かし、語り継ぐ重要な役割を担っています。

そこで重要なのが「非破壊分析」というキーワード。大切な文化財、正しく保護するためにその組成などを知ることは欠かせませんが、そのために傷つけてしまっては本末転倒です。前回は対象にX線を照射し、対象が放つ蛍光X線を分析することで元素を明らかにする「X線分析顕微鏡」とその仕組みを紹介しました。

今回は「X線分析顕微鏡」を使った研究をはじめ、非破壊分析による文化財研究のトップランナーのひとりである、吉備国際大学 大学院文化財保存修復学研究科の下山進教授にインタビューを行いました。長年この分野に携わってこられた下山さん。研究の道のりや研究に関する想いを語っていただく中で、「文化財をはかる」というテーマの締めくくりにふさわしいお話をうかがえました。


文化財研究の基本、非破壊分析にいたったきっかけは“染め物”の美しさ

文化財研究の最前線にいらっしゃる下山さん。ルーツをたどると、京都、そして染め物との出会いがありました。

sub1はかる場:文化財の研究はもとより、非破壊分析での研究でも第一人者として知られる下山さんですが、この道に進まれるきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

下山さん:私は製薬会社の研究員をしていたのですが、たまたま京都を訪れた時に、平安時代の非常にきれいな染め物を目にしました。科学者なもので、「なぜ色もあせずにこんなにきれいに染まるのか」という思いがよぎったんですね。当時の染め物は植物染料がほとんどだったので、どの植物で染めればこんなにきれいになるのか、科学的に解析できないかと考えました。しかし当時の分析といえば、布を切り取って有機溶剤に溶かして分析するような、貴重なものにはとても使えないような代物でした。そこで、なんとか壊さないで染料の分析を行えないかと考え始めたのがきっかけです。

まず植物染料の化学構造を詳しく見てみると、紫外線のような短波長の光を照射すると、染料の分子構造によって当てた光とは別の光が出てくることがわかりました。当てる光の波長を変えながら出てくる光を見ていけば染料の蛍光特性がわかりそうだと。当時はそんなことを調べてくれる機械もなかったので、ある分析メーカーと解析ソフトをつくるところから始めました。

はかる場:意外なきっかけです。非破壊の概念は最初からあったのですね。

下山さん:染料である程度手ごたえを感じ、染織物の分析を進めていくと、当たり前なのですが色を表現するのは植物染料だけではなく顔料だってあるわけです。文化財でいえば、今も沖縄の紅型(びんがた)を調査しているのですが、紅型では蛍光X線分析によって顔料が使われていることがわかりました。

さらに発展させて、顔料を油で練った油彩画はどうだろうと。植物染料で染めた染め物も顔料で染めた紅型も、表面に一種類か二種類の染料や顔料が乗っているくらいですが、油彩画は顔料を油で溶いたものを重ねて重ねて描いていきます。断面で見られれば、色々な絵の具が何層にも重なってるわけです。それまで使っていた分析装置は上からX線を当てて、それに対して出てくる光でどういう元素が存在するのかがわかりましたが、元素がどういう形で分布しているかまではわからない。そこでHORIBAの蛍光X線分析顕微鏡(XGT)に出会いました。微小に絞りこまれた透過X線で層に重なる元素が、マッピング分析で面に広がる元素として分析できる。このXGTがいちばん活躍したのが、ゴッホが最晩年に仕上げた「ドービニーの庭」という作品の分析でした。


ゴッホが残したミステリーに「はかる」で挑む

染め物に魅せられ、色の研究から非破壊分析の第一人者となられた下山さん。HORIBAの技術とコラボレートした大きな取り組みがありました。それがゴッホの「ドービニーの庭」の分析です。

はかる場:「ドービニーの庭」を分析されたお話をうかがえますでしょうか?

下山さん:画家はひとつの絵を二枚残すことがあるのですが、「ドービニーの庭」もドービニー家に寄贈されたものと、ゴッホが画廊で書き残したものがあります。現在、前者はスイスのバーゼル市立美術館に、後者は日本のひろしま美術館に所蔵されています。この二枚には明らかに異なる点がありました。バーゼルの絵には左下に青味の強い緑のような色で猫が描かれている。それが広島の作品では、同じ場所が茶褐色に変色しているんです。広島のほうが贋作なんじゃないかということで疑われたこともありましたが、ゴッホ美術館が確認し、贋作ではないと。ではなぜ猫がいないのか。ゴッホが消したんだ、元々描いてないんだと色々な話が流れました。

はかる場:そこでXGTが活躍したのですね。

下山さん:「ドービニーの庭」はとても大きな絵で、ひろしま美術館の目玉になるような作品です。金額的な価値も高く、当時で数十億。保険をかけるとしても相当な額になるので移動させることは難しく、XGTを解体して、美術館で組み立てなおしたその中に「ドービニーの庭」を置いて分析しました。XGTならば絵の具が重なっていても、元素がすべて分別されて分布がわかります。

この時に出てきたのがクロムという元素が猫の形に分布していて、鉄の元素も重なっていました。「クロムイエロー」というクロムを含む絵の具と「プルシアンブルー」という鉄を含む絵の具が使われているのがわかりました。猫は描かれていたんです。さらにその上を絵の具で塗りつぶしたような茶褐色の部分。ここには「シルバーホワイト」という白色の絵の具が使われていました。しかし、その周囲には「ジンクホワイト」という白色の絵の具が使われていたんです。ゴッホは油彩画を描く際に、白色には明るい透明感のある「ジンクホワイト」を多く使っていました。つまり、ゴッホが猫の姿を塗り消したのではないです。

XGTが持つ、元素の分布を明らかにするマッピング分析、塗り重ねられていても元素の種類を点で明らかにできるポイント分析、どちらの技術も大変役に立ちました。

はかる場:ゴッホ本人の口から語られないとわからなかったことも、はかることで明らかにすることができますね。この研究結果により、その先の「誰が消したんだ?」という議論がはじまったと聞きました。


大切なのは文化財から「教えていただく」という気持ち

ゴッホが残したミステリーにひとつの答えを出した下山さんの研究。最後に文化財に対して「はかる」が果たす役割についてうかがいました。

はかる場:文化財の分析が研究に果たしている役割としてはやはり、史実や時代背景を明かすところに意義があるのでしょうか。

下山さん:それも研究者が文化財から当時の技術を知りたい、という気持ちがあってのことだと思うんですよね。物理化学的な分析とはいえ、関連する周辺知識がないとできないです。ゴッホの絵であれば、ゴッホはいつ生まれていつ死んで、どのような絵を描いてきたのか。絵の具というツールはどんな歴史を歩んできたのか。ひとつの絵を科学的に分析するためには、背景にある絵の素材や技法、そして歴史がわからないと解析できない。学生にもよく言うんですが、「分析装置にかけると何でもわかると思うなよ、出てきたデータを解析できるかできないかは、君たちの知識の豊富さと事実をつなぎ合わせる知恵次第だ」って。事実として得られるデータが読めたって、その先で知恵を働かせるための知識がなければ解析したことにはならない、そういうことなんですね。

たとえばゴッホの絵の中にチタンホワイトがあるから、「あ、ゴッホはチタンホワイトを使っていたんだ」ってバカなことを言うなと。チタンホワイトは近代工業が発達してから出てくるんです。そういった知識があれば、近代工業が発達したあとに誰かがチタンホワイトを上から塗っちゃったんだ、そういう解釈をしなかったらだめだよと。

はかる場:正しく知ることは文化財保護の分野にも役立ちそうです。

下山さん:非破壊分析を行えばどのような素材がどのように使われているのかがわかります。その素材は湿度に弱いのか強いのか、適した環境も。素材を見極め、物理化学的な性質がわかれば、その文化財をどういう状態で保存するのが最適なのかがわかるということです。依頼される内容は文化財の真贋や、組成を調べるまでのことも多いのですが、保存方法へのアドバイスをすることもありますね。

素材を知る。素材の由来を知る。つくり方が見えてきたら、保存をどうしたらいいかを考える。さらに現代に活かすことはできないか。そこまで考えてほしい。なぜ文化財はここまで残っているんですか? なぜ大切なんですか? なぜすばらしいと思うのですか? それだけ現代人を魅了するのであれば、文化財に使われた素材を現代に活かせることもあるのではないかと。

はかる場:たしかに。

下山さん:文化財は、今よりずっと昔につくられ、今私たちが生きている時代に「大切なもの」と定められたものですよね。一方で今もたくさんの人が現在の感覚や感性で絵や工芸品、建築物をつくっています。これらはきっと、100年200年先の人々の文化財になるのでしょう。だからこそ、現在の素材でつくった現在の作品というのも、大切に記録に残していってほしいと思いますね。

平安時代から江戸、明治、昭和と受け継がれた染色技術によって、伝承されてきた染織物があるのですが、明治あたりにヨーロッパからの合成染料が多く入り始めます。すると色だけ見れば同じ色、でも分析によって素材の違いは判明します。素材が違えば染色方法も違ってきますよね。この時点で技術が伝承されてきた染織物とは言えなくなってしまうんです。表に見えるところだけ伝承されるのか、その根本にある技術までが受け継がれるのかでは大きな違いでしょう。

はかる場:そこに「はかる」が果たしていくべき役割は……?

下山さん:大きいですね。貴重な文化財を現在に活かすのも、後世につないでいくのにも、知ることが大事。一番大事なのは「文化財から教えていただく」という気持ちがないとダメ、ということです。なぜ非破壊で行うのか。それは文化財を大事にしているからですよね。教えてもらうためにはかります、決して壊しません、「教えてください」といのる、そういう気持ちがなかったら素直にデータ読めませんよ。そして、教えてもらったことが事実。自分の考えていたことに反することもたくさんありますが、得られたデータが事実、データを自分の都合のいいようにつかっちゃいけない。その事実から何を教わるか、事実から勉強するんです。


貴重な文化財に、研究で直に触れられることについて「大変ありがたいこと」と笑顔で語られた下山さん。文化財を「はかる」ことは扱う対象はもちろん、「はかる」ことで得られる結果も時に重く、プレッシャーもかかるお仕事です。しかし、経験を積み重ね続けてなお文化財から教えてもらうという謙虚な姿勢を貫かれて、その仕事を楽しんでおられるのがたいへん印象的でした。

「はかる」ことでわかる事実に対する向き合い方を教わったような気がします。旅先で、教科書やテレビ番組で。文化財の歴史や背景を知る時にも、教えてもらう気持ちで素直に接してみると見え方が違ってくるかもしれませんね。

 

文化財をはかる

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文化財をはかる[2] 壊さずに真実を解き明かす、X線分析顕微鏡 https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1306/ https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1306/#comments Tue, 26 Aug 2014 02:00:44 +0000 遠藤英之 https://www.jp.horiba.com/hakaruba/?p=1306 法律で規定され、保護することが国の文化を守ることにもつながる「文化財」。「はかる」ことがその価値を可視化し、保存にも大きく貢献しています。使用するのは「X線分析顕微鏡」。その役割と仕組みについて、HORIBAで同製品を担当している青山朋樹さん、中野ひとみさんにお話を伺いました。


文化財をはかる機器、X線分析顕微鏡とは?

文化財の価値を明らかにすることがとても有意義なことはわかりました。しかし「文化財をはかる」こととはいったい、どのような作業なのでしょうか? X線分析顕微鏡を知ることからアプローチしてみます。

はかる場:そもそもX線分析顕微鏡とは、どのような機器なのでしょうか?

中野:試料(はかる対象)にX線をあてて元素分析を行う手法を「蛍光X線分析」と呼んでいまして、それを用いた装置のひとつがX線分析顕微鏡です。装置から発生したX線を試料に当てることで、試料の中にどういった元素が含まれているのか、それを分析します。

青山:X線は透過力が強いので試料の内部まで届きます。そしてX線が原子にに当たると、X線と原子の相互作用で二次的に「蛍光X線」を発するのです。これがそれぞれの元素特有のものであるため、試料に含まれている元素が特定できるというわけです。この装置のメリットは、試料を壊さないでそのまま測定できるということです。

はかる場:当然、文化財は壊すわけにはいきませんもんね。

中野:通常元素分析をしようとすると、表面を削ったり、真空の状態をつくらなければいけなかったり、何かで溶かして液体の状態ではかったりと、試料を壊すことも多いんです。非破壊検査が求められる場合では、X線分析顕微鏡を使います。

青山:X線や蛍光X線は大気に吸収される性質があります。そのため、真空の状態をつくって、試料をその中に置くというはかり方をしているケースがあります。X線分析顕微鏡では、蛍光X線を検出する機器のところに「X線は通すが空気は通さない」特殊なフィルムを貼ってあるので、試料のまわりに真空をつくらず、そのままの状態を保ちながら高精度の分析ができます。


マッピング分析とポイント分析、ふたつの「はかる」

分析手法にもパターンがあります。

 

はかる場:表面をはかるケース、物質の中身をはかるケースと用途はさまざまなようですね。

中野:大きく分けると「マッピング分析」と「ポイント分析」があります。マッピングは試料をスキャンしながら測定する分析手法で、試料のどこに何の元素がどれくらいあるのかをヒートマップのような見せ方で可視化します。

青山:X線分析顕微鏡には透過X線の画像化機能も備わっています。透過X線の像は、いわゆるレントゲン写真のようなもので、試料内部の密度や濃さ、重さについて の分布を見る用途に使われます。

中野:マッピング分析が試料全体をスキャンしながらはかるのに対し、「ポイント分析」は文字通り、一点だけをはかります。

青山:指定したポイントの元素分析をするんですね。どういう元素が何%ずつ含まれているのか。たとえば黒い金属状の物質の一点をはかったら、「鉛」「鉄」「クロム」 がそれぞれ何%入っています、という情報が得られます。全体像を明らかにすることと、ピンポイントで詳細の情報を得ることの違いです。

はかる場:試料のサイズは限られますよね?

中野:そうですね、顕微鏡タイプですとどうしても限定されます。大きくても30 cm四方くらいまでしか入りません。高さは9 cmまでです。一度にはかることができる領域自体、10 cm四方なんですよ。絵画などであればずらしながらということになりますが、ポイント分析であれば全体のサイズはあまり問題になりません 。


X線分析顕微鏡は意外に身近なところで使われていた

基本がわかったところで、よりイメージしやすくするためにいくつか具体的な使用例を挙げていただきました。

はかる場:実際にどんな現場で、どんな役割を果たしているのでしょうか?

中野:工業製品などの「不良解析」で使われることも多いですね。製造過程で混入してしまった異物の解析など。ニュースで薬を包むフィルムや紙の内側に本来入ってはいけないものが混ざっていて回収騒ぎになる、といった話を時折、耳にします。見た目にはわらかなくても、蛍光X線分析を行い、本来では存在するはずのない元素がみつかれば原因究明につながります。食品でも異物混入が問題になります。この際には非破壊検査が役に立ちます。お客様から「異物が入っていた」とクレームがあった時、パッケージを開けて調べていたら、製造過程で入ったのか、お店に並んだ時点で入ったのか、もしくは購入されたあとに入ったのか、わからなくなることもありますから。

はかる場:時間を特定することはできないですよね? いつ入ったのか、どうやって知ることができるのでしょうか。

青山:異物が混入した時間がわかるわけではないのですが、異物混入の状況を限定するひとつの材料にはなります。たとえばお店や工場のライン、その場その場に存在する、つまり混入しうる元素かどうかで判断する、などです。

はかる場:確かに犯罪捜査でも、指紋が見つかったらそれだけで犯人ということにはなりません。まわりのさまざまな状況と合わせて判断していくのに似ていますね。ほかにはどんなケースがありますか?

中野:変わったところでは文字の改ざんでしょうか。違うインクで塗りつぶしたり、上書きをしていたりするとインクの成分がそこだけ異なります。マッピング分析を使って文字全体に含まれるインクの元素分布を見ると、何か目印になる元素を見つけられて、その文字が改ざんされたかどうかの判断材料になります。


文化財をはかるために、X線分析顕微鏡が選ばれる理由

お話を今回のテーマである「文化財」に寄せていきます。

はかる場:異物混入にしても、文字の改ざんにしても、意外と身近なところで使われている印象です。文化財の分析はどのような方が利用されているのでしょうか。

中野:美術や博物館学、考古学、このあたりを専門にされている大学の先生や研究者の方が多いですね。出土品の元素分析では、金色に見えるものが果たして金なのか、実際に元素を見ないとわからないこともあります。

青山:焼き物はその土地の土を使っているものが多いんですが、たとえば九谷焼なら九谷焼をつくっている土地の窯や土の特徴が元素分析にも出てくるので、それを利用している先生もいます。土の成分が地域で異なり、焼き物は地質の影響を受けるので、何焼なのか、特定する材料になります。

中野:粘土はマグネシウムが多い、アルミニウムが多いといった具合に、その土地の地質を反映します。何々焼はカルシウムが多い、というような情報があらかじめわかっていれば、元素分析の結果で産地を判断できます。

考古学者さんたちが知りたいとおっしゃることはやっぱり、つくられた「時代」だと伺います。焼き物の産地のように、土の成分や釉薬(うわぐすり)などは時代によって使われるものが違うそうなので、それが動かぬ事実として年代の特定につながることもあるでしょう。つくられたとされる時代には存在しなかったはずの元素が見つかれば、模造品だ、贋作だ、写本だという話になってきますね。

はかる場:時代や地域を特定することは、文化財の価値の決め手になりますよね。

青山:価値はもちろんですが、研究対象として考えれば「真実」を知るという側面があると思います。


文化財をはかる≒真実を解き明かす、その先にあるものは

文化財をはかることで、認められる「価値」と、明らかにされる「真実」。この技術がこれからどんな役割を担っていくのか。最後に聞いてみました。

はかる場:文化財をはかる技術にはどんな可能性があると思われますか?

青山:京都ではよく目にしますが、お寺をはじめとした建造物の修復がありますよね。ほとんどは職人さんが長年培ってきた経験と勘で作業されてきたと思うのですが、元素分析をしていくことで組成がデータとして蓄積される。勘だけに頼らない方法で、文化財の修繕や保存に役立つことがあるのでは。

はかる場:人材不足も深刻だと聞きますし、その役割は期待したいところですね。

中野:ゴッホが晩年に「ドービニーの庭」という作品を2枚描いたのですが、一枚はスイスのバーゼル市立美術館、一枚はひろしま美術館に所蔵されています。2枚は同じ構図なのですが、片方には黒猫が描かれていて片方には描かれていない。さらに描かれていないほうには不自然に塗りつぶしたような跡があり、「そこには黒猫がいたのでは?」と長年語り継がれてきました。その真偽を確かめるために、吉備国際大学の下山進教授がこの装置を使って絵を調べたんです。

はかる場:それは面白いですね。

中野:マッピング分析をしたところ、黒猫が描かれていないほうから、黒猫を描くのに使われたと思われる絵の具の成分が出てきました。上から別の絵の具で塗りつぶされていたのですが、X線で下の絵の成分も浮き出てきて。

この研究結果の先には「誰が消したんだ?」「いつ消したんだ?」と議論が続くのですが、その議論が「黒猫はたしかに描かれていた」という事実に基づいてなされるようになっただけでも大きな意味を持ちます。はかることが直接、真実を解き明かすだけでなく、研究者のみなさんが真実を解き明かすためのベースの部分として、これからもお役に立てればと思います。


非破壊検査であること、元素の特定から真実に近づくこと。文化財をはかることは、私たち人間の歴史を知ることであり、築いてきた文化を後世につないでいくために小さくない役割を果たしています。

 

文化財をはかる

>>文化財をはかる[1] 文化財と、文化財が抱えている問題を知る
>>文化財をはかる[3] 文化財をはかることは、文化財から教えてもらうこと

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文化財をはかる[1] 文化財と、文化財が抱えている問題を知る https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1276/ https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1276/#comments Wed, 23 Jul 2014 08:00:25 +0000 遠藤英之 https://www.jp.horiba.com/hakaruba/?p=1276 ひとえに文化財といっても、その形はさまざま。1950年に制定された文化財保護法では、文化財を次のように規定しています。

“この法律で「文化財」とは、次に掲げるものをいう。
一  建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとって歴史上又は芸術上価値の高いもの(これらのものと一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を含む。)並びに考古資料及びその他の学術上価値の高い歴史資料(以下「有形文化財」という。)
二  演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの(以下「無形文化財」という。)
三  衣食住、生業、信仰、年中行事等に関する風俗慣習、民俗芸能、民俗技術及びこれらに用いられる衣服、器具、家屋その他の物件で我が国民の生活の推移の理解のため欠くことのできないもの(以下「民俗文化財」という。)
四  貝づか、古墳、都城跡、城跡、旧宅その他の遺跡で我が国にとつて歴史上又は学術上価値の高いもの、庭園、橋梁、峡谷、海浜、山岳その他の名勝地で我が国にとつて芸術上又は観賞上価値の高いもの並びに動物(生息地、繁殖地及び渡来地を含む。)、植物(自生地を含む。)及び地質鉱物(特異な自然の現象の生じている土地を含む。)で我が国にとつて学術上価値の高いもの(以下「記念物」という。)
五  地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの(以下「文化的景観」という。)
六  周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で価値の高いもの(以下「伝統的建造物群」という。)”

「有形文化財」、「無形文化財」、このあたりの言葉は聞かれたこともあるのでは。民俗芸能や風習などを指す「民俗文化財」に触れることもあるかもしれません。四項に該当する「記念物」は少しイメージしづらいですが、史跡、名勝、天然記念物などが該当します。形はさまざまですが、共通しているのは「人類の歴史の中で生み出されたもので、それを通じて歴史や文化を正しく理解することができ、また将来に渡って残すべき価値の高いものであること」でしょうか。

前置きが長くなりましたが、今回、はかる場で取り上げるテーマは「文化財をはかる」。「はかる」が文化財にどんな役割を果たすのか、見ていくことにしましょう。


文化財を守ることは国の文化を守ること

やはり馴染み深いのは「有形文化財」でしょうか。建造物、絵画、彫刻、工芸品から書籍や古文書まで。実は“国宝”や“重要文化財”も有形文化財から指定されます。先ごろ世界遺産に登録され話題を呼んでいる富岡製糸場もまた、初期の建造物が重要文化財に指定されている有形文化財でもあります(敷地そのものは史跡)。

法律や条例で文化財を指定するのには、その存在自体に高い価値を認めようということもありますが、やはり主な目的は「保護」にあります。その価値が認められれば観光資源になることもあり、国や自治体の補助も得ながら、定期的なメンテナンスや修理・修復で良い状態に保ちます。たとえば、海外のファンも多い京都にはたくさんのお寺や神社がありますが、訪れた時に限って修理中と、ちょっと残念な経験をされた方もいるのではないでしょうか。文化財の多くは今の建物のように耐震性や防火性に優れていないので、時が経てば経つほど補修の必要性が増していき、あちこちで修復工事が見られるということになります。

時の移ろいは文化財そのものだけではなく、保護方法にも影響を及ぼします。維持にかかるコスト、所有者の高齢化や後継者不足、ものによっては千年の時を経て補修を行うこともあり、技術の継承も困難になっています。


「はかる」で文化財の価値を可視化する

文化財の指定にも、いろいろな要件が求められます。定義にあるように「歴史上、芸術上価値が高い」とするためには、歴史的背景の理解やそれを示す文献、芸術的な観点と、たしかな目が必要です。過去には文化財指定後に贋作であることがわかり、指定の取り消し、指定に関わった人物の辞職につながったケースもありました。

もうおわかりですね。これら文化財の指定や、保存・修復の課題解決に「はかる」が役立っています。使う技術は「X線分析」。そうです、文化財は傷をつけることができないので、指定や修復のための調査も非破壊であることが必須です。文化財を壊すことなく組成や内部を明らかにすることで、つくられた地方や年代の特定につながります。文化財保存・修復の分野で活躍する「文化財をはかる」技術について、これからより深く迫っていきましょう。


次回は文化財をはかる、X線分析顕微鏡についてのお話です。

 

文化財をはかる

>>文化財をはかる[2] 壊さずに真実を解き明かす、X線分析顕微鏡
>>文化財をはかる[3] 文化財をはかることは、文化財から教えてもらうこと

 

Photo by Thinkstock/Getty Images

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器の違いも、お見通しです。 https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1263/ https://www.jp.horiba.com/hakaruba/archives/1263/#comments Thu, 19 Jun 2014 07:00:31 +0000 遠藤英之 https://www.jp.horiba.com/hakaruba/?p=1263  

骨董品店に飾られた唐津焼の器。しかし、それぞれが焼かれた年代には約350年の隔たりがあることを、見た目でお分かりいただけたでしょうか。HORIBAの技術は発掘された陶器や絵画、建造物にX線を照射し、試料から二次的に発生する蛍光X線を検出することで、素材・塗料などの組成を解析。得られた結果は、それが造られた年代推測に応用することが可能です。過去の偉人の技が創った逸品を、現代の科学が創った技で分析する。骨董・美術品の鑑定や考古学分野の発展にも、HORIBAは光を当てています。

 

※広告シリーズ 「見えないけど、見つけられる。」 WEDGE(ウェッジ)2014年7月号より

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